CASE STUDY
事例
倉庫をつかう、あたりまえに
Cafe,Roastery & Eatery
築年数の経過した倉庫を改装して、そこに住んだりお店を開いたり、オフィスにして起業したり。倉庫のこうした使い方は、海外では珍しいものではない。国内とは法令や建て方の違いもあるし一概に比較できないが、もっとも大きな違いは「あたりまえ」という意識、なのではないだろうか。
東京は江東区・森下に2店舗をかまえるiki espresso(イキ エスプレッソ)は、ニュージーランドスタイルのカフェ&ロースタリー。エスプレッソにスチームミルクを加えるフラットホワイトを広めたカフェの一つだ。
2015年にオープンした1店舗目は、森下駅と清澄白河駅のほぼ中間。周辺は住宅と小規模のビルや倉庫が混在し、決して賑やかなエリアではない。それでも営業時間中に客足が途切れることはなく、休日には満席になる。

建物は5階建ての倉庫ビル。1階でオープンしたがすぐに2階に増床し、現在は合わせて約80の客席を配している。もとは日用品などを納めていたが、立地や規模感もあって倉庫としての使い勝手が次第に悪化。エレベーターもなく、iki espresso が入居するまで3年近くも空いていたという。
その建物のポテンシャルに気が付いたのが、iki espresso 代表の原瀬輝久氏だ。生活の拠点を置いていたニュージーランド最大の都市・オークランドでは多くのカフェやロースタリーでコーヒーを淹れ、倉庫を改装したカフェで働いていたこともあり、築年数の経過した建物を生かすのが自然という環境だった。「倉庫をカフェに」という発想は、原瀬氏にとっては「あたりまえ」だったのだ。

だが、建物のオーナーは、あくまで倉庫としての賃貸を望んでいた。リノベーションにも乗り気ではなく、当初は「ましてや飲食店を開くなんて」と言われたという。しかし建物の規模や間取り、立地、そして賃料なども含め事業用地として最適と判断した原瀬氏は仲介業者とともに説得にあたる。オーナーも「ビルを再生させる」、「地域も向上させる」という原瀬氏の言葉に気持ちが動き、カフェの開店とリノベーションを了承。結果として建物を一棟まるごと借りることで落着した。上階にはテナントも入り、満室が続いている。

原瀬氏は、2店舗目にも倉庫を選んだ。1店舗目から歩いて5分ほどの隅田川沿いに2022年にオープンした iki Roastery & Eatery(イキ ロースタリーアンドイータリー)は、醤油の倉庫などとして使われたのち住宅や物置となっていた木造の建物。切妻屋根のがらんどうに約40席と焙煎機を置き、食事も充実させた。ランチ時には平日でも行列ができるほどの賑わいをみせる。

今ではニュージーランドスタイルのコーヒーや食事を楽しみに、遠方からも多くの人が訪れる。10年前のオープン当初は、目的地になるような場所ではなかった。「ここでやりたい。この建物でやりたい」という原瀬氏の思いは、確実に地域をも変えてきた。
清澄白河や森下を含む一帯は、今ではロースタリーカフェの集積地として知られている。iki espresso のオープンとほぼ時を同じくして出店が相次ぎ、その後10年にわたって数を増やし続けてきた。その多くが倉庫をはじめ、築年数を経た建物を活用したものだ。いまやリノベーションは、「あたりまえ」になりつつある。

「もっと店舗を増やしていきたい」と話す原瀬氏。いずれは東京だけでなく、地方にも自身のスタイルを広げていきたいという。その場所として築年数を経た建物を選ぶことにも、倉庫を使うことにも気負いはない。あたりまえなのだから。
iki espresso
東京都江東区常盤2-2-12
iki Roastery & Eatery
東京都江東区常盤1-4-7
https://iki-espresso.com/
取材・文:久保純一(イーソーコ総合研究所)
公開:2026年4月1日
※掲載内容は取材当時のものであり、現在とは異なる場合があります。