SOHKO RENOVATION MAGAZINE

COLUMN

コラム

日本物流不動産評価機構(JA-LPA)代表理事 望月光政

INTERVIEW

物流不動産に特化し、評価・診断業務、法的なコンサルタントなどを行っている日本物流不動産評価機構(JA-LPA)。海外の物流施設の視察旅行なども企画する。同機構の望月光政代表理事は、数多くの物流施設の設計に携わってきた。その数は、日本で屈指のものである。日本で一番多くの物流不動産を保有・利用しているといわれる日本通運の不動産、設計を担う日通不動産の取締役常務執行役員エンジニアリング本部長などを歴任。物流のプロであり、建築のプロでもある望月氏に、昨今の物流不動産市場とリノベーションをめぐる状況を聞いた。(敬称略)
出村:JA-LPAは設立6年目を迎え、オフィスビルやマンションのように、物流不動産が日本のマーケットで適正な価格で取引される環境づくりを進めてこられました。
望月:JA-LPAでは、数多くの物流施設を評価、レポーティングしてきました。特に金融機関から投資や与信の関連で依頼を受けることが多いです。物流の観点から、汎用性があるか、どのような荷物に合うスペックかなどを確認します。周辺環境のチェックも重要ですし、建築の観点から見た法的なチェックも欠かせません。古い物流施設であればあるほど、建てられた当時は問題なくても、現行法規に合わなくなっていることもあるので、改修工事などを行う時には注意が必要になります。最近では、汎用性の中に、耐震や地震による液状化リスクといった項目も含まれるようになりました。物流施設の体力測定のイメージでしょうか。また、毎年、物流不動産に関連するセミナーを開催し、物流や建設、地震の影響などをテーマに行っています。物流だけでなく、建設や不動産、金融の方々にも参加いただき、物流不動産への注目の高さが伺えます。
出村:現在、ファンドを中心に超大型物流施設の大量供給が続いています。通販会社が利用しているというのをよく聞きます。
望月:日通グループとしても、超大型物流施設を借りたり、自社で建設したりしています。3PL(サードパーティ・ロジスティクス)として、お客様の荷物を一括で請け負い、効率的な物流を組み立て、コスト削減を図るためには、超大型物流施設はなくてはならないものです。従来使っていた倉庫には新たな荷物を誘致するように営業努力をしますが、老朽化している倉庫は建て替えることもあります。周辺環境が変わってしまったところでは、物流施設を建て直すのではなく、別用途にしています。秋葉原駅前は、もともと日通の物流拠点でしたが、家電量販店やオフィスビルに再開発されました。他ではマンションや学生寮などに建て替えることもあります。



出村:オフィスビルやマンションの市場も競争が激化しています。そのような状況で、玉突き現象により、中小規模の高築年数の空き倉庫が増加しており、対応策が必要です。
望月:周辺が住宅街に変わったり、前面道路が狭かったりする高築年数の保管型倉庫(ヴィンテージ倉庫)は、物流施設という観点から見ると厳しい評価となりますが、リノベーションという切り口から見れば高く評価できる場合もあります。例えば築30年の倉庫はあと20~30年ぐらい使うことができる。物流の用途に合わなくなっているのであれば、リノベーションするのも一つでしょう。各階の天井の高さや床荷重の強さ、柱間隔の広さなどを活かせるのが、ヴィンテージ倉庫が現役で利用できる理由です。同じ築30年のオフィスビルでは、空調設備や配管、水回りといった設備が時代にあわず、マーケットとして難しくなります。さらに、最新のオフィスビルは、吹き抜けのエントランスや無柱で開放的な執務空間を備えています。倉庫と現在のオフィスビルは非常に親和性が高くなっています。現在、日通が物流施設を評価する場合「そのまま利用する」「売却」「解体」で考えていますが、もう一つ「リノベーション」という選択肢が出てくるでしょう。今後、ますます倉庫のリノベーションにはたくさんの可能性があると思います。


1984年当時、東洋一と言われた日本通運の物流センター。この設計・開発にも望月代表理事は係わっている。

<望月光政氏 プロフィール>
1971年 日通不動産入社
1998年 同社建築設計部長
2001年 同社取締役
2006年 日本物流不動産評価機構代表理事兼推進協議会委員長(現職)
2007年 日通不動産取締役常務執行役員
2012年 同社顧問

聞き手:出村亜希子(イーソーコ総合研究所)