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Logistics Architecture -物流が建築、都市を変えていく-(14)

Logistics Architecture研究会第14回フォーラムは、武蔵野美術大学教授・オンサイト計画設計事務所代表の長谷川浩己氏と日本大学教授の岡田智秀氏が登壇した。

 

長谷川氏は「気仙沼内湾ウォーターフロント・『迎』ムカエル『創』ウマレル(PIER7) -土地利用が錯綜する港湾地区でいかに全体風景をつくるか-」について、また岡田氏は「ウォーターフロントのまちづくり -歩みと展望-」について、次のような概略のプレゼンテーションを行った。

気仙沼の内湾地区は、東日本大震災で被害を受けた。高さ約5.1mの防潮堤を建設するにあたり、まちと海との関係を切らないような計画が求められ、防潮堤を挟み込むような形でまち側に公共施設と民間施設などの開発を行い、防潮堤の上にテラスを設け、海側に階段席や芝生の広場などを整備するという、人々を海に誘い、海を眺めるような全体像が描かれた。

 

港湾エリアは土地の利用が錯綜しており、また土木、建築、ランドスケープなど専門性ごとに計画が分離していた。さらにオンサイト計画設計事務所が参加した時には、それぞれの計画がすでに動いていた。オンサイト計画設計事務所はコーディネートの協力を行いながら、それらをつなぎ合わせてひとつの風景にまとめていく作業を行ったという。

 

長谷川氏はプロジェクトを振り返り、次のような感想を語った。
「利用する人には境界線は関係なく、彼らが体験するのは内湾を含めた風景である。風景をつくるには、全体を見ていく立場がないと難しい。みんなに通じる言葉をつくることが大事だと感じた」。

 

「ウォーターフロントのまちづくり -歩みと展望-」は、1960年代に行われた丹下健三や菊竹清訓などの建築家による海上都市の計画案の概略説明から始まり、バブル経済期の空間プロデューサーなどによるウォーターフロントカルチャーの事例などが、続いて紹介された。またコンテナ活用の物流への影響、特に内湾エリアの倉庫への影響を語った。

 

そして1985年に運輸省港湾局が発表した長期港湾政策「21世紀への港湾」によって、産業と物流に特化していた港から、生活とにぎわいというキーワードを入れた総合的な港湾づくりに大きく舵が切られ、1990年のフォローアップ政策の「豊かなウォーターフロントを目指して」が、ウォーターフロント開発を促進させたと解説した。そして事例も紹介された。

 

今後の方向性として「モノの流れから人の流れをつくりだす空間の再編」と「港に市民を入れる規制緩和」などを挙げた。そして2022年12月に創設された、港湾環境整備計画制度を取り上げた。それは港湾分野における官民連携の推進の政策であり、緑地など行政財産の貸し付けなどを行い、民間活力を港湾環境整備に活用しようというアクションプランである。

 

その他に「みなとオアシス」の事例、既存景観資源の活用や水上交通の活性化などが紹介された。そして最後にウォーターフロント開発を振り返り、民間の大規模資本を港に投入して大規模建築物でにぎわいをつくる開発から、既存の港湾施設を活用した市民参加の開発へという流れになっていると語った。

 

中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)

【プロフィール】
長谷川浩己(武蔵野美術大学教授・オンサイト計画設計事務所代表):
1958年千葉県生まれ。オレゴン大学院修了。ハーグレイブス・アソシエイツ勤務。帰国後、ササキ・エンバイロメント・デザイン・オフィスを経て、’98年にオンサイト計画設計事務所をパートナーとともに設立。
主な作品と受賞:横浜ポートサイド公園(グッドデザイン賞)、多々良沼公園/館林美術館・ランドスケープ(造園学会賞、グッドデザイン賞)、東雲キャナルコート中央街区・ランドスケープ(グッドデザイン賞金賞共同受賞、BCS 特別賞)、日本橋コレド広場リニューアル計画(グッドデザイン賞共同受賞)、元麻布C-MA3(JCD デザイン賞共同受賞)、丸の内オアゾ・ランドスケープ、星のや 軽井沢・ランドスケープ(AACA 芦原義信賞、ARCASIA GOLD MEDAL、JIA環境建築賞、グッドデザイン賞、土木学会デザイン賞・選考委員特別賞)など。また、オンサイト計画設計事務所一連の作品に対して、’08年にアーバンデザイン賞を受賞。

 

岡田智秀(日本大学教授):
1967年東京都生まれ。日本大学理工学部海洋建築工学科―同大学院理工学研究科海洋建築工学専攻修士課程―同大学院理工学研究科海洋建築工学専攻博士課程。日本大学理工学部助手、同専任講師(途中、米国ハワイ州立大学海洋・地球科学研究所客員研究員)、同准教授を経て、2014年より日本大学理工学部教授、現在に至る。
主な学外・学会活動として、世界遺産富士山構成資産「三保ノ松原」白砂青松保全技術会議委員、(一財)みなと総研 新みなとまちづくり研究会委員、静岡県海岸保全基本計画策定委員会委員、越谷市景観評価委員会委員長、戸田市景観審議会会長、荒川区景観審議会会長、市原市都市計画審議会会長、景観アドバイザー(埼玉県、栃木県、山梨県、静岡県、越谷市、戸田市、流山市、荒川区など)、いわき市四倉町復興まちづくりアドバイザー/土木学会景観・デザイン委員会幹事長ほか。
受賞:日本都市計画学会年間優秀論文賞(海岸空間とその背後空間を一体的に捉えた新たな海岸まちづくりに向けて-米国ハワイ州の“海岸線セットバックルール”に着目して)、日本沿岸域学会論文賞(東京港臨海部におけるパブリックアクセスに関する評価)、日本沿岸域学会文化賞(都内運河の新たな活性化方策としてのフローティングレストラン実現化プロジェクト)など。

 

中崎隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー):
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会‐建築家31人にみる新しい空間の様相‐』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。