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Logistics Architecture -物流が建築、都市を変えていく-(15)

Logistics Architecture研究会第15回フォーラムは、株式会社micelle代表で建築家の片田友樹氏と株式会社NHA代表で建築家の橋本尚樹氏が登壇した。

 

両氏は各々実作である中古のドライコンテナ(海上コンテナ)を活用したチーズ製造工場と、保育教材の企画・開発・製造を中心とするメーカーの本社・工場の改修プロジェクトについてプレゼンテーションを行った。

 

下記がそれぞれのプロジェクトの概要である。

チーズ製造工場は鹿児島県鹿屋市にある。敷地は立体駐車場の跡地だ。構造は木造で、延べ床面積は約240㎡である。第六次産業や食育などの拠点という位置づけや、空洞化する地域の密度を上げていくことも目指している。

 

中古のコンテナを活用することがプロジェクトの条件であり、6つの中古のコンテナを使用している。2つを縦に並べ、それをひとつのユニットとし、3つのユニットを平行に並べている。その間に45度の片流れのシンプルな小屋組みを架けている。小屋組みを加えることは、まちとの関係性をつくることも意図している。

 

コンテナのモジュールを用いながらユニットの間の空間を操作することで、敷地に対応した空間を生み出すシステムとして計画している。それによって工場の必要寸法を確保した上で、採光、熱、換気などの環境をコントロールし、また将来の拡張性も考慮できるとしている。

 

コンテナは内外装材として機能している。中古のコンテナには塗装の塗り重ね、傷、ステッカーなどの痕跡がある。それらの表情を活かしながら、サイン計画では5色を加えるなどのことを行っている。

 

保育教材の企画・開発・製造を中心とするメーカーの本社・工場は、福井県敦賀市にある。プロジェクトは、敷地面積約3万㎡のマスタープランから始まっている。第一期ではラボの改修、既存建屋外装のレギュレーション、敷地内外構などが行われた。

 

既存建屋外装のレギュレーションは北陸の気候、コンクリートやアルミといった素材との相性を考慮し、ライトグレーでカラースキームを統一して原色の遊具の背景をつくっている。エントランスの門扉、ランドスケープは背景色よりの一段トーンの高いものでまとめている。

 

製品や技術を収蔵・展示するアーカイブ・ギャラリーを新設して、社員の製品や技術への理解を深め仕事に対するプライドを高めるとともに、訪問者への発信の場としている。

 

第2期では出荷前の遊具の仮置き場であり、屋外展示スペースとしても位置付ける大屋根がつくられている。

コンテナが登場したのは、1950年代半ばのアメリカである。それから約70年が経ち、本来とは異なる様々な用途でも使用されている。コンテナは汎用性があるということだ。現在では都市や地域の風景の一部になりつつある。

 

工場を地域社会に開くという流れがある。工場を開いた時に工程と製品をどう見せるか、どう情報発信するか。それは工程と保管のデザインを考えるということでもある。

 

物流に関連する機能などを建築的な視点からデザインすることで、建築と都市は変化していく。

 

中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)

 

【プロフィール】
片田友樹(建築家、株式会社micelle代表):
1984年和歌山県生まれ。2009年東京大学大学院修了。2009年~2013年スキーマ計画、2013年~2014年ケース・リアル、2014年~2017年フリーランスのデザイナーとして独立、2017年株式会社micelleを設立。

 

橋本尚樹(建築家、株式会社NHA代表):
2008年京都大学建築学科卒業。2011年東京大学大学院建築学専攻修了。2008年~2010年Ateliers Jean Nouvel 、2012年~2018年内藤廣建築設計事務所、2018年株式会社橋本尚樹建築設計事務所設立。2023年株式会社NHAに改称。2020年~京都先端科学大学客員准教授。

 

中崎隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー):
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会‐建築家31人にみる新しい空間の様相‐』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。