Logistics Architecture研究会第7回フォーラムは常葉大学準教授の林昌宏氏と日通総合研究所の大原みれい氏が登壇した。
それぞれのテーマは「戦後日本の多重行政化した港湾整備事業-地方分権的制度と中央-地方政府間関係に着目して」と「女性活躍に配慮した物流施設づくり」であり、概要は次のようだった。
1950年に港湾法が制定され、地方公共団体が港湾管理者となり、この約70年間、港湾は「日本型地方分権の実験場」だった。神戸市などをフロントランナーとする港湾管理者間の競合、政策の相互参照が行われ、特定地域内あるいは地域間の重複した事業が展開され、「多重行政化」という状況が生まれた。一方で広域的な港湾の管理・整備案への抵抗が生まれた。
状況を変えているのがコンテナという輸送形態の台頭だ。1990年代に東アジア、東南アジア各国の港湾が大規模化され、日本は国際的な港湾間競争から脱落した。国による港湾の国際競争力回復に向けた取り組みが始まり、港湾法の一部改正、スーパー中枢港湾政策、国際コンテナ戦略港湾政策、国際バルク戦略港湾政策、日本海側拠点港湾政策、官民連携による国際クルーズ拠点政策などが行われ、全国各地に約40港のコンテナ埠頭が整備された。
日本の港湾整備事業は地方分権的な制度と、国際的な港湾間競争の激化に伴う国の政策によって二重構造になっており、様相は複雑化している。
今後の方向性としては大都市圏と地方港湾の役割分担の明確化、広域行政導入の試金石としての港湾の活用などの模索、大災害の発生を織り込んだ港湾の管理・整備、港湾とその後背地との有機的な連携などが考えられる。
2015年に女性活躍推進法(働く場面で活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現するために、女性の活躍推進に向けた数値目標を盛り込んだ行動計画の策定・公表や、女性の職業選択に資する情報の公表が事業主に義務付けられた「男女共同参画局ウェブサイトから引用」)が成立している。
人手不足のなかで女性の潜在労働力が注目され、女性の就業率は上がっているがまだまだ低い。女性就業率が低い運輸業では女性や60歳以上の運転者などが働きやすい労働環境づくりを推進している。倉庫業の女性就業率は約4割と全産業の女性の割合に近い。ピッキングや流通加工などの作業に女性が携わっているからだが、パートタイム労働者など有期雇用などが中心だ。
物流業は男性社会であり、女性にとって働きやすい職場ではない。女性に長く働いてもらう職場環境の整備が必要であり、きれいで居心地がよく、働くことに誇りを持てるような職場が求められている。女性専用トイレ、休憩所、託児所、ラウンジ、更衣室、コンビニ、食堂などを施設内に整備する動きは始まっている。
アイコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の意識改革を行い、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包含)を考慮した働きやすい環境が求められている。
世界との競争や比較のなかで政策や事業を実行し、都市(港湾)と建築(労働環境)を整えていかなければならないということだ。
中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)
【プロフィール】
林昌宏(常葉大学 准教授):
1980年兵庫県生まれ。2010年に大阪市立大学大学院創造都市研究科博士後期課程修了。ひょうご震災記念21世紀研究機構主任研究員、日本学術振興会特別研究員(DC2、PD)などを経て現在、常葉大学法学部准教授。専門は、政治学、行政学、公共政策学。
大原みれい(日通総合研究所):
University College London, Master of Science in Economics 修士課程修了(経済学)。2015年 株式会社日通総合研究所入社。海外の物流インフラ、道路関連政策に関する調査の他、物流業界における女性の活躍推進、ワークスタイルの変革、テレワークの推進に関する研究に従事。
中崎隆司(建築ジャーナリスト&生活環境プロデューサー):
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。