Logistics Architecture研究会第10回フォーラムは武田清明建築設計事務所代表・隈研吾建築都市設計事務所元設計室長の武田清明氏と株式会社シオ建築設計事務所取締役・共同主宰の子浦中氏が登壇した。
武田氏は隈研吾建築都市設計事務所設計室長時代に担当した木造倉庫をコミュニティ施設にコンバージョンしたプロジェクト「富岡3号倉庫、おかって市場」について、また子浦氏は2つの大規模物流施設のラウンジ・プロジェクトの「Big eaves lounge」と「7 Gates Lounge」についてプレゼンテーションした。
富岡3号倉庫は群馬県富岡市にある。世界遺産の富岡製糸場のあるまちだ。富岡倉庫は時代によって異なる構造や外壁の3つの倉庫からなる。1号倉庫は煉瓦造であり、2号倉庫は外壁に大谷石を使用している。そして3号館は学校建築を移築した木造だ。
このプロジェクトは富岡市の市庁舎を設計した隈研吾建築都市設計事務所がそのプロポーザル時にまちの回遊性を高めるマスタープランを提示したことから始まる。活用されていなかった倉庫をにぎわいの拠点に改修することで富岡製糸場への新たな動線をつくり、人の流れを促そうというものだ。
既存の木造倉庫の外観はほとんど変えていないが、倉庫間の狭かった空間を広げるために隅切りをしている。そして新しく設けた庇の下にたまり場をつくり、人が通れるようにしている。その新たな立面はにぎわいが伝わるようにガラス張りの大きな開口にしている。
構造補強で新たな試みをしている。3号倉庫の梁は原木を使用しているため寸法がすべて異なる。間仕切り壁を取り払い、チタンのベルトで梁を巻き、鉄骨の無垢材の柱と接合し、さらに炭素繊維でトラス状に編むようにして構造補強をしている。
「Big eaves lounge」と「7 Gates Lounge」はファッション通販サイトを運営する企業の茨城県つくば市にある約7万㎡の2つの大規模物流施設のラウンジである。そこで働くスタッフが昼食やバスを待つ場所であり、ロッカールームと休憩室、売店などからなる。
「Big eaves lounge」は約7mの天井高を生かし、大きな植栽を入れるなどして公園のような場所にしている。ルーバーを使用して2.2mの天井高の空間もつくっており、人気があるそうだ。公園のフェンスをモチーフにした意匠で背面を隠す配慮した自販機や冷蔵庫、電子レンジなどをロッカールームの複数の出入口から等距離に設置して利用しやすくしている。
「7 Gates Lounge」はワンルームではなく、壁を立てて7つに区画している。壁際にソファ席を設け、席数に柔軟性を持たせている。同じような区画が続くため各区画の壁を色分けし、どの区画の部屋を使っているかがわかるようにしている。また間仕切り壁に設けた通路のアーチの高さは天井高によって変化をつけている。この空間とは別に約80mの通路兼休憩室があり、その天井はボールトにしている。
武田さんがプレゼンテーションで「つくり変えるのではなく読み替える」と語ったが、既存の倉庫をリノベーションあるいはコンバージョンする場合、周辺地域が建設時から大きく変化していることを考慮することが大切である。その変化を見極めながら、周辺地域に役に立つ建築を考えるということだ。
大規模物流施設を建設する場合、そこで働く人のための休憩所、託児所、コンビニエンスストアなどを設けることが必要条件になりつつある。今後はデザインの質を競うことになるだろう。
中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)
【プロフィール】
武田清明(建築家、武田清明建築設計事務所代表):
1982年神奈川県生まれ。2007年イーストロンドン大学大学院修了。2008~18年隈研吾建築都市設計事務所勤務、同事務所設計室長歴任。2018年武田清明建築設計事務所設立。
2019年「6つの小さな離れの家」でSDレビュー2018鹿島賞を受賞。2019年~千葉工業大学非常勤講師
子浦中(建築家、株式会社シオ建築設計事務所取締役共同主宰):
1979年富山県生まれ。2003年東海大学工学部建築学科卒業、2005年東海大学大学院工学研究科建築学専攻修了、2005年~都内事務所勤務、2012年~株式会社NAP建築設計事務所、2018年株式会社シオ建築設計事務所設立。
中崎隆司(建築ジャーナリスト&生活環境プロデューサー):
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会‐建築家31人にみる新しい空間の様相‐』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。