Logistics Architecture研究会第12回フォーラムは、new building office代表の小俣裕亮氏と髙橋勝建築設計事務所代表の髙橋勝氏が登壇。小俣氏は「閖上のオフィス」と2025年開催の大阪・関西万博会場内のトイレのプロジェクトについて、髙橋氏は「太秦トキワ荘」と「β本町橋」についてプレゼンテーションした。下記がその概略だ。
「閖上のオフィス」の設計テーマは、自然災害によって海との関係が分断された場所に再び関係を取り戻すことと、屋外のアクティビティを可能とする空間をつくることである。
港湾エリアに建つ高床のオフィス棟とコンテナを活用したキッチン棟などからなる。鉄骨造で延床面積は約150㎡の規模である。
敷地は宮城県名取市内の太平洋と名取川が交差する場所にあり、三角形の形状をしている。東日本震災後に盛土された地盤面であり、かさ上げされた海抜7.2mの河川堤防と3.7mの防潮堤に囲まれている。
海を見渡せる高床のオフィス棟を支える柱は、支持地盤まで打ち込まれた杭をそのまま使用している。そして、ピロティとテラスが屋外空間として港湾エリアのなかに人が集まる場所をつくっている。
大阪・関西万博会場内のトイレのプロジェクトは、環境に呼応する空気膜構造がテーマだ。敷地が埋め立て地の軟弱地盤であることからできるだけ建物を軽くすることを考え、木造平屋に空気膜構造の屋根をかけることとした。天候条件をリアルタイムで読み、膜構造内の空気を調整する。
「太秦トキワ荘」は、京都市内の倉庫を地域の木材を活かして人がつながるための拠点としてコワーキングスペースなどにコンバージョンしたプロジェクトだ。既存の建物は、鉄骨2階建て延床面積約384㎡。1階は展示・ものづくりスペース、2階はオフィススペースとして使用される。
2階は、建設会社の現場事務所として使われていた時に空間が分節された。その間仕切り壁の一部などを取り払い、地域の木材を使用した小屋を組み、コワーキングスペースとしてしつらえ直し、適度な距離感をつくり出すためにパーテーションを設定している。また、地域の木材を使って小さく区切ったレンタルオフィスを配置している。
「β本町橋」は、大阪市中心地にある水辺の公園施設である。耐火木造の2階建てで延床面積は約280㎡だ。敷地は歴史ある本町橋のたもとの阪神高速道路が上空を走る東横堀川沿いにある。敷地は街とのレベル差が2.5mある。
多様な使い方ができるように、架構は流通サイズの木材を使用した単純な格子でつくっている。2階は活動を外に見せるようにガラス張りにしているが、街とのレベル差を2mにして視線は合わないようにしている。
大阪市との事業協定に基づく民間事業者が20年間運営する。運営者は、長年この地域のまちづくり活動を行ってきた一般社団法人が中心のメンバーで構成されている。
東横堀川は高度経済成長期には汚れていたそうだが、現在は水質が改善されてきているという。その水辺の公園施設を拠点に、キオスク、キッチン、屋台、レンタルスペース、動力船、人力船などを活用した新しい活動の試みが始まっている。
中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)
【プロフィール】
小俣裕亮(建築家、new building office代表):
1982年宮城県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科修士課程終了後、磯崎新アトリエ勤務。2016年new building officeを設立。2019年より東京大学大学院工学系建築学専攻T_ADSの学術専門職員に着任。
髙橋勝(建築家、髙橋勝建築設計事務所代表):
1975年滋賀県生まれ。1997年大阪電気通信大学卒業、2006年京都建築専門学校卒業。2006~2013年遠藤秀平建築研究所勤務。2013年髙橋勝建築設計事務所開設。2018年~京都建築専門学校非常勤講師
中崎隆司(建築ジャーナリスト&生活環境プロデューサー):
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会‐建築家31人にみる新しい空間の様相‐』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。