フォーラム「Logistics Architecture -物流が建築、都市を変えていく-」の第18回は、日建設計総合研究所主任研究員の諸隈紅花氏と、UNQUOTE共同代表・建築家の徳山史典氏と弓削純平氏を講演者に招き開催した。
諸隈氏はイノベーションが起きやすい場所づくりの要素について、「イノベーション空間のレシピ」というテーマでプレゼンテーションした。
スタートアップ企業に関連した情報や、日本橋ライフサイエンス地区やオランダ・アムステルダム市の「Marineterrein(マリンテイレン)」などのイノベーション空間・拠点の国内外の事例を紹介した。
「Marineterrein(マリンテイレン)」は、アムステルダム市の旧市街地にある海軍造船所の跡地の既存施設を保全・活用し、都市課題解決を目的に都市空間で実証実験、実装を目指すとともに、市民にも開かれたイノベーション地区である。
そして、イノベーションを起こす空間は目的が重要であり、共通する要素として次の4つを挙げた。
1.寛容性と集積(多用途・複合、多様な人材と集積、パブリックアクセスなど)
2.連携・ネットワーキング(コーディネート・マッチングなど)
3.アフォーダビリティとサスティナビリティ(政策支援など)
4.場の固有性(有形・無形など)
空間だけではなく、スタートアップエコシステムの構築がポイントであるようだ。
徳山氏と弓削氏は、仙台市内の元新聞社の印刷工場をコンバージョンしたシェアオフィスなど過去に手掛けた事例と、フォーラムの会場となった Warehouse Market Tokyo 「FACE to SPACE」(倉庫リノベーションのショールーム&多目的ギャラリースペース)のデザインについて、動画を交えてプレゼンテーションした。
「FACE to SPACE」は東京都港区海岸3丁目にあり、2024年11月にオープンしている。大手電機メーカーの元研究開発(R&D)センター兼倉庫だった建物の5階の一画の改修である。
特徴は11の可動式家具ユニットを用いた改修であることだ。各可動家具ユニットには2つの面があり、1面は共通仕様のシルバーに塗装されており、もう1面は異なる素材で構成され、機能も備えている。面の一部を可動させて机や棚などとして使用できるという仕組みになっている。つまり可動式家具ユニットは、内壁の役割と家具の機能を持たせているのである。
また各可動式家具ユニットは回転や展開が可能であり、手動で調整して空間の雰囲気や機能、用途を柔軟に変えることができる。ショールームやギャラリー、セミナールーム、ワークスペースなど、用途に応じて可動家具ユニットの面の向きや組み合わせを変えることで、空間を構成することができるということだ。転居時に再利用も可能であり、原状回復工事の負担を軽減させることも意図されている。
中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)
【プロフィール】
諸隈紅花(日建設計総合研究所主任研究員):
博士(工学)。コロンビア大学建築大学院で歴史的環境保全の修士号を取得後、NYの建築・都市計画のシンクタンクに勤務。帰国後は、日建設計や同総合研究所にて、日本やアジアの都市で歴史的資源を活かしたまちづくりに関する業務や研究に従事。近年、日建設計の有志とともにイノベーションと場の研究を行う「イノベーションとともにある都市研究会」を立上げ、国内外のスタートアップエコシステムの実態調査を行い、情報発信やコンサルティング業務を行っている。
徳山史典(UNQUOTE共同代表、一級建築士):
1987 山梨県甲府市生まれ
2010 横浜国立大学工学部建築学コース卒業
2012 東京芸術大学大学院美術研究科建築専攻修了
2012-18 吉村靖孝建築設計事務所勤務
2018 UNQUOTE設立
2019-23 東京藝術大学 教育研究助手
2023- 東京工芸大学 非常勤講師
弓削純平(UNQUOTE共同代表):
1986 愛知県知多市生まれ
2010 北九州市立大学環境空間デザイン学科卒業
2012 北九州市立大学大学院環境工学専攻修了
2012-14 吉村靖孝建築設計事務所勤務
2014-18 イーソーコ総合研究所勤務
2018 UNQUOTE設立
中崎隆司(建築ジャーナリスト&生活環境プロデューサー):
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。