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Logistics Architecture ―物流が建築、都市を変えていく―(8)

Logistics Architecture研究会第8回フォーラムは宮本圭氏(シーンデザイン建築設計事務所代表)と角野渉氏(kadono design NODE代表、首都大学東京客員研究員)が登壇した。

それぞれのテーマは「旧問屋街における倉庫群の再生」と「東アジアの港湾都市におけるコンバージョンのデザイン手法」だった。

 

宮本氏は長野市内の旧問屋街にあったビニールの加工工場・倉庫や文具卸の倉庫群の再生などについて語った。編集者、デザイナーなど仲間を募り、有限事業組合をつくり、初期投資を抑えるためにセルフビルドでリノベーションによってシェアオフィスやカフェ、古本屋など活動の場に利活用することから始め、リノベーションをワンストップで相談ができる拠点までつくっている。

 

倉庫群という特性を生かして機能を分散させ、事業者が集まってシェアして使うという使い方をアピールし、まちへの訴求力を高めている。また共有スペースでのイベント、フリーマーケット、感謝祭などの地域活動を行い、集まってくれる人、関心を持ってくれる人を増やすことをしている。まちの使い方、まちには使われていない部分がたくさんあることを示したことで、地域やメディアに関心を持ってもらうことができた。

 

角野氏はコンバージョンの研究の成果の中から東アジアの都市の中心市街地に近い産業施設のコンバージョンの建築と都市的な背景の実例を講演した。
都市構造が変化するときにコンバージョンが行われ、新しい使われ方で再生していくことが起きる。まち全体がどう変わっていこうとしているかはコンバージョンの内容をみると大筋が見えるという。

 

建築物の特徴を生かした空間的ダイナミズムや歴史・文化の継承などを評価軸として、上海、ソウル、インチョン、台北、高雄といった都市の次のようなコンバージョンの事例を紹介した。発電所を美術館、造船所をアート系複合施設、食肉工場を複合商業施設、倉庫をブティックホテル、ポンプ施設を文学館、酒造工場をアート系複合施設、公設市場を複合施設、倉庫群をアート系複合施設などだ。
建築物が担ってきた歴史の継承の仕方は様々だが、文化観光産業と絡めたアート系への転用の事例が多かった。その理由として2000年代初めに、クリエイティブ産業を既存の産業構造を牽引、活性化する新しい産業として奨励していく政策が行われたことなどを挙げた。

 

既存建築物の建築的な特徴や歴史的な意味を理解し、文化的な背景の整理と継承し、立地的な利点を付加価値化して、事業性を担保することが重要であるとまとめた。

建築物が使われなくなるのは都市との関係でコト(活動や運営)とモノ(空間)が枯れてしまうからだ。リノベーションやコンバージョンは既存の建築物を生かしながら新しい活動や運営のために新しいデザインすることだ。既存の建築物は新築と異なり、すでに空間があり、活動や運営を行いながら複合化し、デザインを加えることが可能であり、コトとモノの両方を熟成させていくことができる。

 

中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)

【プロフィール】
宮本圭(シーンデザイン建築設計事務所 代表):
1970年長野県生まれ。1990年 工学院大学工学部建築学科望月大輔研究室空間デザイン専攻、1996年 同大学院工学研究科建築学修了/株式会社宮本忠長建築設計事務所入社、2006年 シーンデザイン一級建築士事務所開設、2015年 法人化「株式会社シーンデザイン建築設計事務所」社名変更、修士(工学)。

 

角野渉(kadono design NODE 代表、首都大学東京 客員研究員):
1983年横浜生まれ。2009年 首都大学東京大学院都市環境科学研究科建築学専攻博士前期課程修了、2013年 首都大学東京大学院都市環境科学研究科建築学域博士後期課程修了、2013年-2014年首都大学東京特任助教、2018年 明治大学専任助教。現在、kadono design NODE代表。一級建築士、博士(建築学)。
共著に「建築転生 -世界のコンバージョン建築II-」(鹿島出版会、2013)。

 

中崎隆司(建築ジャーナリスト&生活環境プロデューサー):
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。