interview

建築家 渡辺真理

地域活性化と倉庫リノベーション

真壁伝承館(茨城県桜川市)など伝統的街並みを生かした建築、集合住宅といった新たな可能性に挑んでいる建築家の渡辺真理氏。リノベーション/コンバージョンの設計では多摩大学や嘉悦大学などの大学施設の改修を行なった。常識にとらわれることなく、その場所に合ったかたち、クライアントが望んでいた空間作りを進める渡辺氏に倉庫リノベーションの可能性について聞いた。(敬称略)

出村:建築家にとって、倉庫リノベーションの魅力はどういったところにあるのでしょうか。
渡辺:ロサンゼルスで不動産業を営むアメリカ人の友人とリノベーションのために東京の倉庫のリサーチをしたことがありますが、倉庫に関しては『東京は宝の山だ』というのがその友人の口癖でした。オーナーにしても、ユーザーにしても、まだリノベーションの価値に気づいていない人がほとんどだからだというのが彼の主張ですが、彼の言う価値とは経済的価値だけではありません。生活や業務の新たな展開という価値も含まれています。
出村:法政大学と交流のある南カルフォルニア建築大学(SCI-Arc)も倉庫をリノベーションした校舎を活用していますね。
渡辺:今年(2012年)から両校の交流が本格的に開始しました。今夏、法政大の建築学科の学生を3週間派遣します。SCI-Arcの校舎は、ロサンゼルスのリトルトーキョーにあるビンテージ(築年数の経った)倉庫を大改造したものです。歴史的建造物を生かした校舎で、デザインに特化した先進的な教育が推進されています。床荷重、天井の高さといい、模型製作などで広いスペースを必要とする建築学科には、倉庫をリノベーションした校舎は最適ですね。倉庫の大空間を生かした自由度の高い校舎は、ものづくりへの情熱をかきたてます。
出村:大学ができたことで地域の治安が良くなったとか。
渡辺:24時間学生達が出入りしますし、周辺に学生向けの店などもでき、地域が活性化したそうです。歴史的建造物を再生することで、建物だけでなく、周辺にもポジティブな影響を与えることができるのです。また、日本でも新築にはないリノベーションされた建物を好む人が、以前より増えてきたと感じます。東京R不動産などの活躍で「リノベーションがかっこいい」と思う人が増えているのではないでしょうか。

 

出村:先生が手掛けられた真壁伝承館は、桜川市の歴史的建造物と調和させた建築です。
渡辺:建築は、記憶の装置でもあります。古い建物には、地域の歴史、伝統が受け継がれています。安易にスクラップアンドビルドするだけでは、建物、地域が持つ歴史が失われてしまいます。建物のリノベーションはもちろん、新たに建築する場合でも、周囲の景観や歴史に配慮した建築が、求められていると考えています。
出村:倉庫リノベーションもビンテージ倉庫を活用し、倉庫の持つ歴史を大事にしたサスティナブルな建築で地域を活性化することを目指しています。
渡辺:横浜市の取り組みなどが有名ですが、ビンテージ倉庫を再利用することで建築家、アーティストとコラボレーションし、地域のブランド力をアップさせていますね。
出村:今後ともぜひ、建築家の先生方や建築を専攻している学生さん達に歴史的建造物と調和させた建築、倉庫リノベーションで、地域活性化を推し進めていただきたいです。本日はありがとうございました。

<渡辺真理氏 プロフィール>
1977年  京都大学大学院修了
1979年  ハーバード大学デザイン学部大学院修了
1981年  磯崎新アトリエに勤務・ロサンジェルス現代美術館, ブルックリン美術館などを担当
1987年  設計組織ADH設立、現在設計組織ADH代表、法政大学工学部建築学科教授