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Logistics Architecture -物流が建築、都市を変えていく-(16)

Logistics Architecture研究会第16回フォーラムは、建築家の米澤隆氏(大同大学准教授、米澤隆建築設計事務所代表)と建築家の中村航氏(Mosaic Design代表)が登壇した。

 

各々が「中川運河再生計画案『みんなの運河』」と著書の『POP URBANISM/屋台・マーケットがつくる都市』についてプレゼンテーションを行った。

「中川運河再生計画案『みんなの運河』」は、一般社団法人中川運河キャナルアートと米澤隆建築設計事務所が共同で進めているプロジェクトだ。2020年世界運河会議NAGOYAなどで発表されている。

 

中川運河の供用開始は、1932年である。名古屋市内の名古屋港と名古屋駅の南北10.3㎞を結ぶ水運物流の軸として、地域の経済・産業を発展させてきたという歴史がある。ただ社会変化と共にその役割を失い、都市の裏側に隠れ、放置されていたという。

 

そのような状況に対して2012年に名古屋市は、中川運河流域を市民の憩いやにぎわいのある場所として再生される中川運河再生計画を作成している。『みんなの運河』は、その中川運河再生計画をベースにしている。

 

『みんなの運河』は、市民、関係者、専門家などの様々な意見を取り込み、また具体的な計画も反映させたドローイングで構成されている。多様な関係性をまとめるために運河と建築物との間に考案した7つのレイヤーをベースに、10.3㎞の領域をにぎわいゾーン、ものづくり産業ゾーン、リクレーションゾーンなどの4つのゾーンに分け、さらに11のエリアを設定しビジュアライズしている。

 

新しい意見や再生事例を採り入れ、フィードバックするということを繰り返しながらアップデートして共有するというプラットフォームであり、コミュニケーション・ツールの役割を担っている。

 

『POP URBANISM/屋台・マーケットがつくる都市』は、2023年に出版されている。ロンドンやニューヨークなど世界13都市、36事例のマーケットを紹介している。事例を見ると屋台、フードトラック、キッチンカー、コンテナなど小さなユニットが集まり混ざり合いマーケットをつくり、都市ににぎわいをつくっている。遊休地、駐車場、広場、通り、線路脇、倉庫、鉄道高架下、地下街などに出現している。それらのマーケットは軽さと共に時代性、都市性を持つ大衆向け商業のひとつの形であり、都市再生の様相のひとつになっているようだ。

 

魅力的なマーケットは個性、アイデア、デザインと食のクオリティ、オープン、ヒューマンスケールなどがキーワードであり、小さなユニットとは多様な個性の集合であり、人との接点を増やし、人が集まる要因となる。また小さなユニットは入れ替えなど更新が容易であり、変化し続けることができるなどの特徴があるという。

 

背景としては、産業構造の変化で取り残されている建築物や地域があることだ。商業資本が入っている例もあるが、若い人などが地域に入り、地元との人と共に再生することで、地域の治安も改善されているそうだ。

 

小規模で多様なローカルフードの店が集まる実験的なマーケットが、世界中で増加し、人の流れを変えているという状況の調査・研究である。

 

中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)

【プロフィール】
米澤隆(建築家、大同大学准教授、米澤隆建築設計事務所代表):
1982年京都府生まれ 。2007年名古屋工業大学工学部卒業。2014年名古屋工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。現在、大同大学准教授、米澤隆建築設計事務所主宰。受賞に『SDReview2008、2014、2015、2021入選』、『AR+d Awards for Emerging Architecture2011 Highly commended』、『JCDデザインアワード2012 金賞+五十嵐太郎賞』、『日本建築学会作品選集新人賞2015』、『名古屋駅西側駅前広場設計プロポーザル 最優秀提案』、『2025年日本国際博覧会休憩所他設計プロポーザル 優秀提案』などがある。

 

中村航(建築家、Mosaic Design代表):
1978年東京都生まれ。2002年日本大学理工学部建築学科(高宮眞介研究室)卒業、2005年早稲田大学大学院修士課程(古谷誠章研究室)修了。2008年同大学博士後期課程単位取得退学、助手・嘱託研究員を経て、2010年〜16年東京大学大学院隈研吾研究室助教。2011年東南アジアのストリートの屋台に関する研究で博士(建築学)取得。同年建築設計事務所MOSAIC DESIGN設立。明治大学I-AUD、早稲田大学、日本大学などで非常勤講師を務める。近著に『POP URBANISM 屋台・マーケットがつくる都市』(学芸出版社)。店舗・住宅・ホテル・商業施設・マーケットなど、屋台からアーバンデザインまで、何か楽しいことやりましょう!をキーワードに大小さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。

 

中崎隆司(建築ジャーナリスト&生活環境プロデューサー):
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会‐建築家31人にみる新しい空間の様相‐』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。