column

Logistics Architecture ―物流が建築、都市を変えていく―(5)

Logistics Architecture研究会フォーラムの第5回は武井誠氏と坂東幸輔氏のふたりの建築家が登壇した。

それぞれのテーマは「魅せる倉庫-カモ井加工紙mt新倉庫-」(武井氏)、「地域産材を使用した木造倉庫-A Warehouse in Tokushima-」(坂東氏)であり、概要は次のようだった。

 

カモ井加工紙は岡山県倉敷市にあるマスキングテープなどの製造を行う企業だ。武井氏は同社の資料館、第二倉庫、新倉庫を手掛けてきている。

 

「生産の場は風景を変えていくという姿勢がおろそかになりがちだが、まちや社会にどう開いていくか。建築を通して発信しようとした」と語った。

 

新倉庫ではカモ井加工紙で使用されてきた木製パレットの遺伝子を引き継いで建物をつくることをコンセプトにしている。パレットとダンボールのサイズに対応するラックを重ね、棚のようにして屋根をかけている。

 

外壁にはポリカーボネートを使用しており、内部が透けて見える。建築を開くことで従業員に見られているという意識が生まれる。見られているということで従業員の働いている意識が変わる。つまり見られているものをつくっているという意識の変化が起こることを意図している。

 

坂東氏が手掛けたのは徳島市にある徳島県木材センター協同組合の木造倉庫である。徳島県産の杉材を構造材とするツーバイフォー工法を採用している。厚さ38ミリの杉材のトラスが450ミリピッチで並ぶ天井が見せ場である。

 

「素材だけで地域性を出すのは難しい。また建築家の合理性と地域の合理性は異なる。地域には人材と関連した技術があり、建築家がそれを活かすことで合理性を見出していくことはできるのではないか」と語った。

さて、ふたりの講演から次のようなことを考えた。

 

物流はモノを運ぶ、つまりモノを動かすことである。一方でモノを保管する倉庫である建築物は動かすことはできない。巨大な建築物が地域の景観に影響し続けることになる。それをポジティブに考えればスケール感や大きさはインパクトを与えることができることになる。企業が発信したいことに利用することが可能ということだ。

 

倉庫には建設コストをあまりかけれない。ただ構造や外壁などの素材選びを工夫することはできるだろう。素材を見せる要素にすることはできるのだ。

 

倉庫内の環境はモノや作業効率を中心に整えられ、温度、湿度、光などがコントロールされる。その環境は人間にとって快適ではない場合もある。またモノを中心に考えると倉庫内の視覚的なデザインを重視する必要はない。しかしそこで働く人間にとって視覚は重要な感覚である。モノが美しく並べられた状況を美しく感じる。そして光は美しさを感じさせる重要な要素である。

 

人手不足が予測される中で企業は「選ばれる」という認識を持つことが重要になる。選ばれるためには働く環境を良くしていかなければならない。

 

また「見られている」という認識を持つことだ。倉庫で働く人から見られている。また周辺から見られている。「魅せる」ことを試みる例が増えることを期待したい。

 

中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)

【プロフィール】
武井誠(建築家):
1974年東京都生まれ。1997年 東海大学工学部建築学科卒業(山田守賞)、1997年 東京工業大学大学院塚本由晴研究室研究生+アトリエ・ワン、1999年 手塚建築研究所入社。2004年 TNAを鍋島千恵と共同主宰。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了、博士(工学)。現在、東京大学・京都工芸繊維大学非常勤講師

 

坂東幸輔(建築家、京都市立芸術大学 講師):

1979年徳島県生まれ。2002年東京藝術大学美術学部建築科卒業、2002年-04年スキーマ建築計画、08年ハーバード大学大学院デザインスクール修了、2009年ティーハウス建築設計事務所、2010年-坂東幸輔建築設計事務所主宰、BUS主宰、2010年-13年東京藝術大学教育研究助手、2013年aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所を経て、2015年-京都市立芸術大学講師、2018年-A Nomad Sub株式会社を須磨一清と共同設立。

 

中崎隆司(生活環境プロデューサー・建築ジャーナリスト):

生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。