Logistics Architecture研究会フォーラムの第6回は九州大学准教授の黒瀬武史氏(都市計画)と東京海洋大学助教の麻生敏正氏(流通情報システム)のふたりの専門家が登壇した。
それぞれのテーマは「遊休内港地区の漸進的再生」(黒瀬氏)と、「スマートフォンを用いた倉庫内作業計測」(麻生氏)であり、概要は次のようだった。
内港は、元は港の中心だった。そこにある倉庫のなかで歴史的な価値があり、まちのシンボルとして残す価値がある倉庫は空間的にも魅力的であり、集客できる。また歴史的な価値のない倉庫でも都市部では使いようがある。そのような倉庫は地方都市には多数ある。
文化財ではない倉庫は6割ぐらい改修されてもしかたがない。ただ都市の記憶を残すことに価値がある。形を残すという気持ちが大事である。
民間の倉庫に運び込む前の荷物を置く場所である上屋の活用を考える時に海との関係がポイントになる。上屋は大空間であり、海が見えることに少し特別感があり、海との一体性をつくりだす上屋周辺の公共空間を整備することが重要になる。
内港地区はそれなりに長い歴史があって後背地にまちがある。成功している事例では倉庫と港が好きな人の活動から地元のファンをつくり、まちづくりと倉庫の再生を一体的にやっている。
消費目的ではなく人が集まり、愛してもらうためには雇用されている人の存在が重要である。また環境整備において公共側の役割も大きい。
小さく生んで大きく育てる。失敗しても、トライアンドエラーをしながら少しずつ進めていくことだ。
麻生氏が手掛けているのはスマートフォンを用いた倉庫内作業計測の研究だ。
倉庫内作業はピッキング、流通加工、検品、出荷などからなるが、倉庫の施設運営コストの6割をピッキングが占めている。
物流施設では自動化やロボット化などが進められているが、機械化が難しい商品や企業規模もある。
作業者の胸ポケットに作業計測のアプリを起動したスマートフォンを入れ、加速度センサーなどから作業中の加速度や角度情報などを取得する。それらを活用して移動軌跡や距離、姿勢角度、姿勢分布、滞留している時間と場所、移動速度などを計測する。
スマートフォンのデータとハンディターミナルのデータから無理な作業や作業負荷などを推定し、腰が痛いなど言葉にならないような作業者小さな声も拾う。
作業の定量的なデータは手作業の限界、効率化のための機械化など判定のツールになり、レイアウトの変更や教育などの改善案をつくることができる。
現場でできる改善をするためのシステムであり、低コスト低ストレスで実現できる。普段の業務を見える化することで管理者が関心を持ち、改善のループを回すことを狙っている。
ふたりの講演から人間的なアプローチを感じた。
既存の倉庫を新たな人の活動の場所として漸進的な手法でコンバージョンする。手作業を計測することで作業の効率化と働きやすい環境をつくる。
人間は大きな変化よりも漸進的な変化の方が負担を感じない。その変化を継続すれば成熟していく。
中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)
【プロフィール】
黒瀬武史(九州大学 准教授):
1981年熊本県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程修了、株式会社日建設計都市デザイン室を経て、2010年-2016年東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻助教(都市デザイン室)、2016年―九州大学大学院人間環境学研究院都市・建築学部門准教授
麻生敏正(東京海洋大学 助教):
2010年に埼玉大学大学院博士課程を修了し、博士研究員を経て、2012年より東京海洋大学助教。現在は流通情報システムに関する教育・研究に従事。
中崎隆司(生活環境プロデューサー・建築ジャーナリスト):
生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆ならびに、展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』