interview

ニューオフィス推進協会 会長 三栖邦博

ニューオフィス推進協会は、経済産業省(旧・通商産業省)の「ニューオフィス化推進についての提言」を受け、1987年に設立された。オフィスの快適性、機能性に関する調査・研究を進め、日本経済新聞社とともに日経ニューオフィス賞を主催している。最近では、働きやすく生きがいのある職場、感性を刺激し新たなビジネスを生み出すクリエイティブ・オフィスの普及を目指し、精力的に活動している。同協会の三栖邦博会長に日本のオフィスをめぐる環境の変化、オフィスへの投資効果、日本人の目指す新たな働き方について聞いた。(敬称略)

出村:ニューオフィス推進協会は、オフィスワークの生産性を向上させるオフィスの普及を進めてこられました。
三栖:当協会が設立された1980年代、日本の製造業は非常に好調で、工場の生産性は高く、安くて質の高い製品を大量に製造するというビジネスモデルが出来上がっていました。そして、次はオフィスワークの生産性を向上させることが課題となりました。当時、コンピュターなどの機器類がオフィスに導入され、作業の効率化は図られましたが、一方で、機器からの発熱、騒音、配線、照明など機械化に対応した設備が整っていないオフィスビルがほとんどで、オフィス環境が悪化し、本当の意味での生産性の向上が求められました。増加してきたIT機器を活用し、新しい働き方に対応するためにもニューオフィス、クリエイティブ・オフィスが求められるようになったのです。
出村:クリエイティブ・オフィスとは、具体的にどのようなオフィスを指すのでしょうか。
三栖:当協会では、クリエイティブ・オフィスの定義として、野中郁次郎氏が提唱した組織的知識創造理論「SECIモデル(セキモデル)」をベースとしています。この理論によると、新たな知識創造のためには、暗黙知と形式知が連鎖し、ともに刺激することが重要です。この2つの知を連鎖させていく工夫が様々な形で凝らされている場がクリエイティブ・オフィスです。
出村:現在、クリエイティブ・オフィスを構え、他社と違ったアイディアを持ち、新たなビジネスを作り出す企業が業績を上げているのが目立ちます。

三栖:『クリエイティブ・オフィス・レポートv2.0』でも発表しましたが、知識創造が活発に行われている企業は、営業利益水準が高い傾向にあるということがわかっています。IT系企業に多く見られますが、一般的に元気な企業は、感性を刺激するオフィスをつくることを投資と捉え、アイディアの生まれるコミュニケーションを活発化できる様々なしかけ,つまり知識創造のための行動を誘発し、加速するしかけをもったクリエイティブ・オフィスをつくっています。
出村:2012年度日経ニューオフィス賞の経済産業大臣賞を受賞したスノーピーク、ニューオフィス推進賞のワンオブゼムなど若い経営者の感性が反映されたクリエイティブ・オフィスですね。こういったオフィスを見ていると、オフィスはコストではなく、経営に必ずリターンがある投資と経営者の方々が考えているのが分かります。

三栖:そういった需要に応えるためにも、日本のオフィスビルも米国のように、オフィスフロアをスケルトン渡しにすればよいのではないかと考えています。建築基準法など法規の問題もありますが、日本のオフィスビルは天井や床などほぼ仕上げた状態で、テナントに引き渡されます。これでは、テナントは原状回復の手間や費用を考えるとオフィスに手を加えるのを躊躇していまいます。
これに対し、倉庫をリノベーションし、オフィスにする場合ですと、高い天井、柱の少ない自由な空間を企業のイメージにあわせ、デザインできるのが魅力です。2007年度に日経ニューオフィス賞・経済産業大臣賞を受賞したTBWA博報堂のオフィスを見たときも、ここは元倉庫でしたが、1000坪近い空間を生かした一つの街づくりをみるようなオフィスにびっくりしました。オフィスを見るだけで、クライアントにとって他社とは違った新しい提案をしてくれそうな印象もありますね。
出村:倉庫リノベーションでは、従来の机を一律に並べるタイプのオフィスではない空間づくりをお手伝いしたいと思っています。
三栖:これからのオフィスは、企業を発展させるクリエイティブな環境づくりとともに既存ストックの活用も重要です。日本経済の活性化のためにクリエイティブ・オフィスの普及を目指したいと思います。
出村:倉庫リノベーションも既存ストック活用、日本経済活性化に微力ながら力を尽くしたいと思っています。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

<三栖邦博氏 プロフィール>
1963年 東京工業大学理工学部建築学科卒業、大学院へ入学
1964年 大学院を中退し渡米、イリノイ工科大学(Illinois Insitute of Technology,米国シカゴ市)大学院建築学専攻修士課程入学
1966年 同大学院卒業後、Skidmore,Owings & Merrill建築設計事務所(米国シカゴ市)勤務
1968年 日建設計工務(株){現・(株)日建設計}入社
2000年 代表取締役社長
2004年 会長
2008年 顧問(2012年6月退任)
2012年現在 ニューオフィス推進協会会長、日本建築士事務所協会連合会会長など