東京スカイツリーと錦糸町駅のなかほど、大横川親水公園沿いに立地する「すみだパーク」は、ギャラリーやスタジオ、フットサルコート、ショップなどを集積した複合施設だ。その核となる「すみだパークプレイス」と「すみだパークプレイス2」は、いずれも倉庫仕様のビルとして建てられている。
施設を運営する鈴木興産は、1782年に神田岩本町で創業した水あめ製造販売業「鈴木弥吉商店」が前身。現在の場所に移転後、1958年に倉庫を主体とした不動産賃貸業に転換してからは、工場を倉庫として使用したり、物流施設に建替えたりしながら倉庫機能を充実させていった。
ふたたびの転機となったのは2009年、倉庫を改装して小劇場をオープンさせたこと。切妻屋根の元倉庫にはその後、カフェやギャラリー、スタジオなどもオープン。さまざまな機能を持ったカルチャー施設として、現在でも「すみだパーク」の一翼を担っている。
一帯がカルチャーの集積地として知られるようになったころ、「都内には舞台稽古ができるスタジオが少ない」「倉庫を稽古場として貸してほしい」という声が演劇界から寄せられるようになる。そして、ある舞台の稽古場として空き倉庫を貸したのをきっかけに、スタジオを軸とする施設の新築計画がはじまった。
鈴木興産の代表取締役、鈴木明弘氏は当時を振り返る。
「倉庫って普通は壁に囲われていて、『入ってはいけません』っていう場所ですよね。でもそこを開放することで何か新しいことが生まれるんじゃないかという思いがあって、倉庫の一部を開放したイベントを開催したりしていたんです。スカイツリーもできて、人の流れも変わってくる。でも、ここには地域の拠点になるようなランドマークがなかった。それを創ろうと思ったんです」
こうして誕生した「すみだパークプレイス」は、フットサルコートやレンタルスペース、保育園、コンビニにオフィスと倉庫を複合したビルとして設計された。閉じられていた倉庫エリアの一角を街に開放するための、新たな一歩。「すみだパークプレイス2」が竣工する5年前のことだ。
2022年竣工の「すみだパークプレイス2」には、スタジオと屋内スポーツアリーナ、カフェレストラン、医療機関と倉庫などが入る。「すみだパークプレイス」とは隣接しており、それぞれを補完し合うフロア構成となっている。「すみだパーク」に新たな機能を加えつつ、さらなる充実をはかったという点で、ひとつのエポックに到達したといっていい。
「もともと業態を転換しながら事業を続けてきた下地もあり、先代である父からは『5年おきくらいに新しいことをやっていかないと廃れていく』という話もされていました。私自身、さまざまなものを取り入れていきたいという思いもあって、それが複合ビルというかたちになっていったんです」(鈴木氏)
「すみだパークプレイス」「すみだパークプレイス2」とも、構造は倉庫建築とした。複合ビルとしてオーバースペックにならないよう、かつ将来のコンバージョンの際に不足のないよう配慮した結果だ。そこに、さまざまな機能を集積させてきた。
「これからも、いろんなジャンルのものを入れていきたいんです」と語る鈴木氏。複数の機能を融合させるのは、経営的にみればリスクヘッジになる。入居者にとってはシナジーも期待でき、街の人々にとっては利便性も向上にもつながる。そして、そうした機能が頑丈な倉庫に入っていることで、災害時に果たせる役割は飛躍的に増す。60年以上にわたって倉庫を構築し、貸してきた企業が選んだ選択だ。
「すみだパーク」内には、築年数の経過した倉庫やビルが数棟ある。いずれも現役だが、将来的な建替えも視野に入りつつある。その時、倉庫建築のメリットを知り尽くした企業が選ぶ答えは、もう決まっているようだ。
すみだパークプレイス
東京都墨田区横川