倉庫や工場が立ち並び、多くのトラックやトレーラーが行き交う。東京湾に浮かぶ城南島は、工業用地として造成された埋立地だ。その一角に立つ「アートファクトリー城南島」も、工場として建てられ、倉庫として使われていた建物をリノベーションしたもの。その姿は、この人工島に新たな価値を現出させつつある。
「アートファクトリー城南島」は、アート作品の展示ギャラリーや多目的スペース、アーティストが作品制作を行うスタジオなどからなる、アートの複合施設。全国でホテルを運営する東横インが社会貢献活動を目的に開設したもので、現在は子会社であるギャラリー1045が運営している。2014年にホテルの備品などを納めていた倉庫を改装し、アートの集積拠点を構築した。
建物は延床面積約3000㎡。地上4階の倉庫建築と、それに付随する別棟からなる。建物正面の低層部はレンガ調のタイルで覆われ、外構のフェンスもレンガと洋風の白い鉄柵で構成。鮮やかな赤で塗られた鉄材ともあいまって、外観から倉庫や工場といったイメージを抱くことはないかもしれない。
館内1階の壁は外壁から連続するレンガ調のタイル貼りで、グレーの床とブラックの天井、アクセントとしてあしらわれたウッドなどが落ち着いた雰囲気を醸している。館内にはそこかしこにアート作品が展示されており、なかでも美術家・三島喜美代氏の作品を多く展示している。ライトアップされた作品が暗色でまとめられた空間に浮かび上がる様は、まさに異空間の趣だ。
1階の奥にある約960㎡の展示空間は、この建物の象徴ともいえる存在。工場や倉庫として使われていたスペースで、1~3階まで吹き抜けの天井の高さは10mに達する。直接トラックが接車できるほか、天井の切り欠きで上階の制作スタジオとつながっているなど、使い勝手の良さは倉庫建築ならでは。アート作品の展示以外にもさまざまな使い方が可能だ。
2階は作品の収蔵庫と広々とした多目的スペース。1階とは異なり白を基調とした明るい雰囲気で、作品展示のほかイベントやワークショップなども開催できる。
3階は、「Japanese Paper “Edo”Installation」と題した常設展。浮世絵を特殊技術で拡大印刷したインスタレーションで、一部の展示では音声案内も実施。浮世絵のなかに入り込むような感覚で、江戸の雰囲気を味わえる。
4階は、アーティストのための空間。ギャラリーにもなる多目的スペースのほか、各アーティストのアトリエであるブース型のスタジオが並ぶ。各ブースはアーティストに賃貸しており、広さは10~24㎡ほど。別棟には木工場や金属加工場を併設したブースもあり、あらゆる作品の製作が可能な環境が整えられている。入居期間は最長3年間で、特に大規模な宣伝もしていないが、空きがでてもすぐに次が決まるという。
屋上には、芝生の築山と西洋風の石畳が美しい屋上庭園がひろがる。湾岸エリアや羽田空港も望むことができ、アーティストたちの憩いの場となっているほか撮影場所などとしてレンタルも行っている。
リノベーションは設計から施工まで、東横インのホテル開発のための建築部門が行った。実は同社の前身は大田区で創業した電気設備工事業で、もともとものづくりやアートへのこだわりへの意識が強かったという。ワークショップやアート制作体験などをさかんに行っているのは、この「ものづくりの町」へ貢献したいという思いから。倉庫を改装したアート拠点の運営を続けているのは、アーティストに活躍の場を提供したいという思いがあるからだという。
工業地帯・城南島。アートファクトリー城南島は、この人工島が生み出すものの一つにアートを加え続けている。
アートファクトリー城南島
東京都大田区城南島2-4-10