機能とデザインが一体となった耐震リニューアル工法を推進
一級建築士事務所TIS&Partnersの今川憲英氏は、赤レンガ倉庫、横浜スーパーファクトリーなどデザイン性と安全性を両立させた耐震改修を行っている。建築を外科医的な手法で再生する「外科医的建築家」を名乗り、素材と空間を結ぶ構造デザインを推進する今川氏に、美的観点と安全性、新素材の開発など耐震補強を伴うリノベーションについて聞いた。
今川氏の耐震改修事例でも、1999年に手掛けた横浜赤レンガ倉庫(述べ床面積10755㎡)は、「ユネスコ文化遺産保全のためのアジア太平洋遺産賞」優秀賞を受賞した代表作だ。
同倉庫は、エポキシ樹脂注入工法でファサードはそのままに内部空間を改造。1911年の竣工当時の雰囲気を損なわず、港横浜の歴史を感じさせる倉庫の耐震改修を行った。レンガの寿命は500年だが目地は50年で劣化する。しかし、目地にエポキシ樹脂を注入することでレンガの本来の寿命に近づけることができ、間仕切りの除去、床に穴を開けるなども可能になった。エポキシ樹脂注入工法を導入したことで、400人収容するホールを作ったときも、鉄骨ブレース(以下ブレース)など視覚的補強なしで、改修出来た。
また、今川氏はレンガ造りでは1985年に洲本ミュージアムパークの耐震改修を手掛けており、阪神淡路大震災時にも建物に大きな被害はないという実績があった。エポキシ樹脂注入工法を使い、ブレスなどを利用しない現状を崩さない耐震補強について、顧客からの絶大の信頼を得ている。
エポキシ樹脂は、短時間で固まる素材であり、建築の改修には万能素材として使われている。今川氏は、「人も建物の間接が弱いが、エポキシ樹脂で接合部を構造に適した補剛を行うと、既存の柱梁に負担をかけることなく耐震性能を上げることができる。」と話している。
今川氏は、住宅、オフィスビル、学校、歴史建造物、屋外モニュメントなど多様な用途や素材の建造物の耐震性能評価を行っている。既存建物の素材と骨格の長所を生かし、地震国日本で建物の寿命を2倍以上にする改修を推進。居ながら工事や振動や騒音に配慮した工法などクライアントのニーズに応じた改修方法を提案している。これまでにレンガ造の倉庫以外にも、江戸時代の寺院、登録文化財指定の教会などを再生させてきた。
さらに、機能とデザインが一体となった耐震リニューアル工法ISGW(Interior Shear Grid Wall)も得意とする。耐震耐力不足な鉄筋コンクリート造の建物をガラスと鋼製格子のハイブリッド技術で補強する。ISGW工法は耐力不足のRC建物をガラスと鋼板で開放的に補強し、デザイン性も高く、居ながら改修工事ができ、出入り口もグリッドシステム内に設置が可能、そしてエポキシによる接着工法は低騒音、小粉塵施工となっている。
今川氏は、「デザインされた素材と骨格により、耐久性とデザイン性を両立できると思っている。耐震改修は古い建物に、様々な工法により新しいエッセンスを注入することで、寿命を延ばし、耐震改修のコストを下げることも可能だ。創立以来、国内外で2300件を超えるプロジェクトを300人以上の建築家やデザイナーと協働し手掛けてきたが、今後も既存建物の素材と骨格の長所を生かし、建物の寿命を延ばす活動を推進したい」と話している。