亀有駅から線路をたどって西へ歩くこと約10分。「SKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)」はJRの高架下にある。倉庫を改装した約3000㎡を超える敷地に、設計事務所「DAIKEI MILLS」、アートブックのディストリビューターである「twelvebooks」、レコードを取り扱う「VDS」、カフェ「TAWKS」などが入る芸術文化拠点だ。
内外装ともに無機質な既存建物の現しに、天井にはさび止めが塗られた鉄骨。亀有駅側の大空間には、あるいは棚として、あるいは中2階の床として組まれた足場用の単管が整然と並び、その奥にうがたれたガラス扉から光が差し込む。むき出しの単管は硬質さこそあるものの冷たさはなく、そのピッチや意外な繊細さも相まってむしろ軽快な感じを受ける。
中央を縦に貫く単管の通路を進むと大量のレコードに、ついで洋書に囲まれる。これらのレコードや洋書は「VDS」と「twelvebooks」、それぞれの商品。オンラインでの販売や卸業をメインとしている2社の在庫でもあり、ここで販売もしている。平日でもレコードや本を選ぶ人の姿が見られ、その奥ではスタッフが商品の発送の手配をしている。ここは売り場でもあり、開かれた倉庫でもあるという。
足場用の仮設階段が、ここでは2階への動線だ。上った先にはまた大量の洋書と、設計事務所・ DAIKEI MILLS の拠点がある。
SKAC は、DAIKEI MILLS が取り組む「社会のVOID(空所)を時限的に占有し、一般へ解放する運動」すなわち SKWAT によるもの。2019年に始動し、オンラインや公共電波にも活動が拡大しつつある。
2024年にオープンした SKAC はその取り組みのひとつであるとともに、発信の場や活動の場としての役割も担っている。
高架下の有効活用は、数年前から活発化してきた感がある。この場所も、元はOA機器の保管場所として使われていた高架下の倉庫だ。JR東日本が亀有駅西側の高架下を約800mにわたり開発し、店舗や広場、歩行者空間などを整備。楽しい散歩道にしようという思いから名付けられた「ぽちかめ」の一環として、DAIKEI MILLS が改修を手掛けることとなった。
SKAC の他には、コンビニやディスカウントストア、スーパーマーケット、保育園などが入る。いわば、生活に密着した施設のなかに文化芸術拠点が位置するかたちだ。そのこと自体が、SKWATの概念「一般への開放」の具現化でもあり、高架下という構造物の汎用性と特異性を端的に表しているといえるのかもしれない。
隣接した小さめの空間は「PARK」と名付け、展示・イベントスペースとして、カフェ「TAWKS」の溜まり場として機能している。「TAWKS」のコンセプトは、訪れる人々にリフレッシュできる空間と飲み物を提供し、都市の喧騒から一息つける場。食文化を中心とした自由なコラボレーションを通じて、人々の交流を促す風通しの良いコミュニケーションの拠点となることを意図している。
「利用価値が希薄になった素材や空間をどのように再活用し、公共に開かれた場とするか」
そんな問いかけから生まれた SKAC は、高架下の元倉庫を選んだ。だが、 SKWAT では「今でも倉庫です」と。
SKWAT の活動は空間構築にとどまらず、展示、出版、物販、レクチャーとさまざまに広がってきた。不完全なものから生じる価値の転換に焦点を当て、その作用として VOID を解放する。ここはそのための VOID であると同時に、あらゆるものを内包してもいる。だから、現役の倉庫なのだという。
SKWAT では近い将来、さらなる場の拡張を予定している。