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“倉庫萌え”はじめました!

ぼくはここ数年、ずっと「倉庫ってかっこいい!」と思っている。その名も「かっこいいホームページ」というタイトルで、倉庫壁面の魅力を世に問うたこともある。しかしなかなか理解されない。

 

ぼくはこの20年間、工場の写真を撮って発表することでそのすてきさを訴えてきた。うれしいことにいまや「工場萌え」はいち趣味として確立されつつある。そして次は倉庫だと思っている。

 

ぼくのまわりの人間に「倉庫っていいよねー」というとだいたい大きく分けて2つの反応が返ってくる。「え…?」っていう人と「あー、いいよね、赤レンガとか」という方々だ。前者はまあ仕方ない。数年前までは工場だってそういう反応されたのだ。問題は後者だ。これがなかなかやっかいなのだ。

 

残念ながらぼくは赤レンガを代表とするようないわゆる「近代化遺産」の時代のものにはあまり興味がない。すでにあれはすてきなものとして認知されており、そもそもぼくなどが出る幕ではない。ぼくが夢中なのは高度経済成長以降~現在までの倉庫だ。「倉庫萌え」の神髄は現代的な倉庫にあるはずだ。しかし「すてきな倉庫=赤レンガ系」という価値観を覆すのは難しい。

 

高度経済成長以降の倉庫のどこがすてきなのか。言葉で説明するのは簡単だ。まず大きい。大空間だ。普通の人間のためのビルとは階高が違う。だからこそ倉庫のリノベはエキサイティングなわけだ。そして前出のような壁面のパターンもグラフィカルでかっこいい。他に似たものがない。誰もが倉庫を見れば「倉庫だ」と認識できるわけで、これはけっこうすごいことだと思う。

 

まずはこのような見た目に惹かれているのだが、いかんせん工場のような派手さに欠けるのでフォトグラファーとして工夫しなければならない(がんばります)。そして「見た目」とは別に「倉庫とは何か」を考えるとさらにおもしろい。写真だけでなく、そういう考察も語っていきたいとずっと思っていた。倉庫はおそらく現代という時代の都市がどういうものなのかの一端を分かりやすく教えてくれて、そしてそれは大人の好奇心をくすぐる楽しい趣味になるはずだ。

実は今年から業界誌「ロジスティクス・トレンド」で連載をさせていただくことになった。その名も「倉庫萌え」と題していろいろな倉庫をまわり、ぼくが感じたそれぞれの倉庫のかっこよさを写真に撮り、文章を書かせてもらっている。これを機に「倉庫萌え」人口を増やしたい。

 

本文章執筆現在までに、3つの倉庫を見せていただいた。1962年に建てられた東京都港区の第一東運ビルでは内部の亀甲状の梁に驚き、横浜は日本超低温さんでは-60度を体験させてもらうなど(死ぬかと思った)、毎回大興奮である。しかしやはり感動するのは「倉庫とは何か」が少しずつ分かっていくその瞬間である。

 

ぼくの友人にはダムマニアが何人かいる。工場と同じく市民権を得たダム趣味だが、彼らの話を聞いていて気がついたことがある。それは「実はダムの話してない」ということだ。では何の話をしているのかというと水系の話をしている。

 

ダムとは河川という水のシステムに人間が置いた装置のうちもっとも象徴的な存在であり、それを追いかけていくとおのずと水系全体に興味が及ぶようになるようなのだ。はじめはその大きさや見た目に惹かれてダムを好きになるのだが、そのうち河川や地形、水利用の法律や歴史、台風や災害・気象などに詳しくなっていく。

 

つまり、彼らはダムを通してシステムを見ている。倉庫も同じだ、と思った。物流それ自体は見えないけれど、倉庫という存在を通してそれを感じ・知ることができる。例えば-60度の超低温倉庫は本来発電のためのLNGの冷熱を有効利用している。その元はガス輸出元国で液化するために投入されたエネルギーそのものだ。つまり、表にあるエネルギー源としてのLNGの裏に、超低温という形でのエネルギーの貿易も行われているのだ。それが国内でコールドチェーンの出発地点になっている。

 

あらゆる倉庫になんらかのユニークなシステムが接続している。倉庫とは何か。現時点でのぼくの答えはそれは「時間」だ。ダムが水を貯めるのは川が人間の思惑など関係なくとうとうと流れるからだ。つまり「時間の調整」である。世界にタイムラグというものがなかったなら倉庫は不要だろう。倉庫もダムも、我々人間が時間に支配されていることをその大きさで表しているのだ。

 

倉庫の見た目を愛でつつ、こういう発見をしていきたい(業界の方々にとっては周知の常識であり発見でもなんでもないでしょうが)。そしてその面白さを世の中に広めたいと思う。まずはみなさん「ロジスティクス・トレンド」をご覧ください!

 

大山 顕(”ヤバ景” フォトグラファー / ライター)

<プロフィール>

大山 顕(おおやま けん)
“ヤバ景” フォトグラファー / ライター
1972 年千葉県生まれ。1998年千葉大学工学部修了。制作・論文のテーマは「工場構造物のコンバージョン提案」。子どもの頃から工場や工事現場を遊び場とし、学生時代には工場写真を撮っていた生い立ちが、この論文に結実。同時に在学中から団地の写真も撮り始める。卒業後松下電器(現Panasonic)に入社。シンクタンク部門に10年間勤めた後、フォトグラファーとして独立。出版、テレビ出演、イベント主催など幅広く活動中。
写真集に『工場萌え』『高架下建築』『団地の見究』『ジャンクション』など。