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ゆるやかに、ゆっくりと、緊張感を持って

2015年12月、倉庫リノベーション研究会はヒルサイドテラスのオーナーである朝倉不動産株式会社代表取締役社長の朝倉健吾氏をゲストに迎えてトークイベントを開催した。タイトルは「偉才をひきつけるヒルサイドテラスの磁力」だ。

さて私は毎年9月にヒルサイドテラスF棟にあるヒルサイドフォーラムで開催される「SDレビュー」に出かける。「SDレビュー」は建築家の槇文彦氏の発案で始まった、1982年から続く建築・環境・インテリアのドローイングと模型の展覧会だ。若手建築家の登竜門であり、独立してすぐの新しい才能に出会うのが楽しみだ。その才能が育っていくことで社会は豊かになる。

 

ヒルサイドテラスは東京・代官山にある集合住宅、店舗、オフィスなどからなる複合施設であり、槇氏の代表作だ。設計を依頼したのは槇氏が38歳の時というから若手建築家に依頼したということになる。数期に分けて旧山手通りに沿いにつくられ、代官山のイメージをつくってきた。第一期の完成が1969年であるから2019年に半世紀を迎える。

 

朝倉氏は槇氏との関係について次のように語った。「家族のようにつきあっているが、いまでも仕事の打ち合わせは緊張感がある。それが新鮮さを保てる要因かもしれない」。

確かに緊張感がなくなると新しいことは生まれない。打ち合わせに新しい提案があれば、脳は刺激され、活性化される。

 

ヒルサイドテラスはその磁力で多くの偉才を集めてきた。その代表格がアートディレクターの北川フラム氏だ。アートフロントギャラリーの代表であり、1984年からヒルサイドテラスA棟にあるギャラリーで展覧会活動を続けており、多くの美術作家を紹介してきている。近年はその展覧会活動を元に「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ」や「瀬戸内国際芸術祭」などの地域づくりも手掛けている。

 

ヒルサイドテラス完成後の最初の10年は入居したファッションブランドや飲食店などが代官山のイメージをつくった。1980年代から始まったSDレビューやアートフロントギャラリーの活動は継続されている。数年前から入居者の世代交代がはじまっているそうだ。半世紀近くの歴史の積み重ねがあることからヒルサイトテラスの価値を理解して入居してくるという。

朝倉氏はヒルサイドテラスの価値と今後について次のように話す。

「誰かが引き継いでくれることがいちばんであることは間違いがない。ただ誰が所有するかではなく、建物が残ることが肝心だと思う。何かやることで土地が生かされて価値は出る。蓄積されていき、古くなればなるほど価値がでる。同じものをつくり替えてもいい。ヒルサイドテラスが残るよりもまちが残ることが大事だ」。

芝浦地区の倉庫リノベーションは約10年の歴史がある。その蓄積をベースに倉庫リノベーション研究会は2014年から活動を始めた。やっと3年目を迎えることになるが、これからもゆるやかな人のつながりをつくり、ゆっくりと新しい提案を発表していきたいと考えている。

 

中崎 隆司(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)

 

<プロフィール>

朝倉 健吾(あさくら けんご)

代官山ヒルサイドテラスオーナー

1941年  東京、代官山に生まれる

1964年  慶應義塾大学経済学部卒業

1971年~ 朝倉不動産㈱ 専務取締役

1973年~ ㈱朝倉商会 代表取締役

1997年~2002年 上目黒二丁目地区市街地再開発組合理事長(東京都目黒区)

2014年~ 朝倉不動産㈱ 代表取締役

渋谷区文化芸術振興推進協議会委員

代官山ステキなまちづくり協議会副代表

一般財団法人渋谷区観光協会評議員

 

中﨑 隆司(なかさき たかし)

建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー

1952年福岡県生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。生活環境(パッケージデザインから建築、まちづくり、都市計画まで)に関するプロジェクトの調査、企画、計画、設計などを総合的にプロデュースすること、建築・都市をテーマとした取材・執筆を職業としている。著書に『建築の幸せ』(ラトルズ)、『ゆるやかにつながる社会 建築家31人にみる新しい空間の様相』(日刊建設通信新聞社)、『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』(彰国社)、『半径一時間以内のまち作事』 (彰国社)ほか。

 

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https://www.value-press.com/pressrelease/127346