「倉庫リノベーションギャラリーを運営するのが、ずっと夢だった。そして、実現して倉庫の無限の可能性の虜になった」と東京・日本橋馬喰町でアートギャラリー・レントゲンヴェルケを運営する池内務代表取締役は語る。池内氏は、1990年代に現代アートのアーティストが集ったギャラリー・レントゲン藝術研究所で、初めて倉庫リノベーションギャラリーを実現し、現在のギャラリーは2件目の倉庫リノベーション物件という倉庫フリークだ。
池内氏には倉庫への憧れがある。1960年代のNYで、アーティスト達が利用していた倉庫リノベーションギャラリーだ。有名なのは、今では高級ショッピング街となっているソーホ―地区。オノ・ヨーコも参加した前衛芸術運動「フルクサス」の創始者ジョージ・マチューナスが、同地区の倉庫リノベーションに先鞭をつけた。1960年代後半に廃業した繊維倉庫などを改修して廉価でアーティストに売るという事業「フルックス・ハウジング・コーポレイティブ」を始めたのがきっかけだ。アーティストがビンテージ倉庫(築年数の経った倉庫)をアトリエとして利用し、個性的な物件に生まれ変わらせ、ギャラリーなど美術関係者が集積したことで、街が活性化していった。
NYの倉庫リノベーションに憧れていた池内氏にとっての転機は、1989年に横田茂氏が、港区海岸に倉庫リノベーションギャラリーを開設したことだ。個性的かつ解放的なギャラリーの雰囲気に池内氏は、ますます自身が倉庫リノベーションギャラリーを持つ夢を膨らませたという。
1991年、池内氏が満を持してレントゲン藝術研究所を開設した。大田区にあった約190坪3階建ての倉庫を大幅に改装。元倉庫の天井の高さ、柱の少なさを生かし、大型の現代アート作品を意欲的に扱い、注目を集めた。若き日の村上隆、小谷元彦ら現在のアートシーンで活躍するアーティスト達の“梁山泊”のようなギャラリーとしてアート界の伝説となった。
さらに、六本木コンプレックスなどを経て、池内氏は現在のレントゲンヴェルケを2008年に開設。築50年の元繊維倉庫をリノベーションしたこのギャラリーは、入り口に入るといきなり約4mある吹き抜けの空間となっている。吸い込まれるように階段を上がると展示スペースへと誘われる。ホワイトキューブの空間は、作品の持つ吸引力をいっそう高めている。
倉庫リノベーションギャラリーへのこだわりについて池内氏は、「何より倉庫の天井の高さは、欧米を中心に大型化する現代アート作品を展示するのに最適。また、都内でそれなりに広い空間を手に入れようとすると、賃料的にも倉庫は魅力がある」と話す。
また、「倉庫の広い空間は、定型のないもののメタファー(暗喩)、空間として幅広く利用できる可能性を示唆していると思っている。芸術という形のないもの受け入れてくれる広さ、深さを倉庫は持っている」と強調する。
さらに、池内氏は「大き目の倉庫をギャラリーにリノベーションし、1つの会社で運営するのは、コスト的に厳しいだろう。しかし、一つの倉庫リノベーション物件にギャラリー、小売業など複数のテナントが入居、運営するスタイルには、可能性があるのではないだろうか。顧客にとっても、1ヶ所で様々なギャラリー、店舗を散策できるメリットがある。アートに限らず人流、流通業、サービス業とリンクすることができれば、倉庫リノベーション事業は成長する可能性があると感じている」としている。
レントゲンヴェルケ
代表取締役 池内 務
http://www.roentgenwerke.com/