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喫茶店に求めるものは、倉庫にあった

札幌市豊平区にある喫茶店、宮田屋珈琲豊平店。約900㎡の敷地に立つ店舗は、趣あるレンガ造りのもと倉庫だ。
建物は延床面積約635㎡の2階建てで、喫茶店としてはかなり大規模といっていい。1970年代に倉庫として建てられたもので、喫茶店としてオープンするまではタイヤメーカーが使用していた。珍しい芋目地に積まれた赤レンガが、冬の雪景色にも夏の青空にも映える。

内部は一部吹抜けの、解放感あるつくり。フローリングの床に、屋根を支える鉄骨と木製のファニチャー、ところどころ顔をだす壁のレンガ、それに抑え目の照明が相まって、落ち着いた雰囲気を演出している。前述のとおり、喫茶店としては広大といっていい建物のなかに並ぶのは約200席。それでも店内はゆったりとしており、かなり余裕を感じさせる。この広さを活かし、スツールが置かれたカウンターや1~2人用のテーブル席、大人数でも利用可能な大テーブルなど様々な席を用意しているほか、完全個室のレンタルルームも完備している。

倉庫を喫茶店に選んだのは、さまざまな用途に対応するためかと思えば、根底にあるコンセプトは「さぼれる喫茶店」だという。
「私が営業の仕事をしていたとき、よく喫茶店でさぼっていたもので」と笑いながら話すのは、宮田屋珈琲の代表・宮田一也氏。「他の人を気にせず、思い思いにのんびりしてほしい」と、他の来店客と目が合わないようテーブルの間にパーテーションを置いたり、奥まった場所に目立たないような席をつくったり。豊平店以外でも、「さぼれる」ように配慮したレイアウトを心がけているという。

現在9店舗を展開する宮田屋珈琲では、豊平店のほか東苗穂店も倉庫を改装した建物を使用している。こちらは約300㎡の石造りで、建物に入っていた屋号をもとにオーナーを探し当て、宮田氏自ら交渉して喫茶店のオープンを実現させたという。今では地域のランドマークともなり、札幌景観遺産にも指定されている。

「倉庫の改装には気を使う点もありますが、特に古くて趣のある倉庫は雰囲気があり、広々していて、しかも賃料も比較的安い。私が目指す喫茶店づくりには向いてるんです」と倉庫の魅力を語る宮田氏。その故郷・九州には、収穫した煙草を乾燥させる石造りの倉庫があちこちにあった。今でも古い倉庫を目にすると、さまざまな思い出が巡る。
倉庫を選ぶのは、どうやら実利的な理由だけではない。次に選ぶのもまた、きっと倉庫だろう。

宮田屋珈琲
https://miyataya.co.jp/