オフィス内の部署や機能を分けるゾーニングといえば、壁やパーティションやなどで仕切るのが一般的だ。最近ではアコーディオンカーテンやブラインド、植栽などによるゆるやかなゾーニングも見られるようになってきているものの、部署や機能の境目に目安となるものを置いて物理的な仕切りとしている点で大差はない。一方そのころ、「ハイテクノ」の東京オフィスでは…。
店舗の看板や内外装デザイン、イルミネーションから内装プランニングまで、空間演出という切り口で「店舗を見せる」をつくってきたハイテクノ。2017年8月、「第2東運ビル」にオープンした同社東京オフィスは、事務所と倉庫という機能を兼ね備えた施設だ。
しかしながら、室内にはパーティションやアコーディオンカーテンといった間仕切りは見当たらない。デスクやOA機器などは床を一段上がった小上がりのようなエリアに集約されており、ここを執務スペースとしているのだ。
そして、このオフィスでゾーニングの役割を果たしている小上がり、実は物流用パレットなのである。
「もともと単なるオフィスではなく、倉庫も備えた物件があればと思っていまして」と話すのは、同社東京オフィス支社長の井奥啓介氏。
「工場から出来上がって来た看板を納品するまで置いておいたり、ちょっとした修理をしたり。工具や台車など、作業に必要な備品も置いておかなければなりませんし」。
ということで選ばれた第2東運ビルは、倉庫やオフィスが一体となった複合型のビル。「倉庫にもオフィスにも」という物件は多くないはずだが、井奥氏は「5月に東京オフィス設置を決定して、6月には物件を決めてましたから、そうでもなかったですね」とむしろ意外そうな様子。「『倉庫兼事務所』というのも、広さがあれば荷物を置いても何とかなるだろうという程度で、絶対条件ではなかったんです。ですからここを見て、すごく使い勝手がよさそうだな、とすぐに決めてしまいました」。
ゾーニングにパレットを使ったのも、事務所内に荷物が置かれて雑然とした雰囲気になることを防ぐ目的があったという。パレット採用の理由について井奥氏は「まずは見た目の格好よさですね。パレットを置くことで明確にゾーニングできますが、視覚的にはつながりをもったひとつの空間として映りますから、圧迫感もありません。当面は倉庫として使おうと考えていますが、いずれはショールーム的な機能も持たせたい。パレットは置いてあるだけなので、将来の変化に合わせてフレキシブルに対応できます。それと小上がりの上は靴を脱ぐようにしたのですが、これが実にほっとできるのです」。
オフィスの内装は設計・デザイン・施工のほとんどを自社内で手掛けた。オフィスにプラスチック製のパレットを敷いてゾーニングするアイディアは、デザイン事務所「NOSIGNER」が手掛けたオープンソースデザイン(Mozilla Factory Japan)から。ところどころにコードの出し口があり、パレットの中にコード類を通せばOAフロアとしても機能する。
室内は白とグレーを基調とし、床や壁には緑のカッティングシートでアイキャッチが施されているが、よく見ると「HAND LIFT」や「CLEANER」、「SAMPLE & BOOK」など、アイキャッチ自体が道具や資料の置き場所を示していることに気付く。そして執務スペースには「CHANGE & CHALLENGE」の文字。オフィスのゾーニングに、壁やパーティションは必ずしも必要ではないのだ。
入居してみて感じるのは、入居企業同士がつながる面白さ。実は以前から取引のある企業が偶然同じフロアに入居しており、その企業の紹介で他の入居企業ともつながりができてきたのだとか。
「いろいろなクリエイティブな企業と仲良くなれるのがおもしろいですね。最近ではノックもせずに入ってきて、それはそれで困るんですが」と井奥氏は笑うが、「もっと入居者同士が仲良くなれるイベントをやってもいいかもしれない」と、入居企業とのコミュニティ形成には積極的だ。
コミュニティ形成がすすんだビルでは、もしかしたら入居企業同士の「ゾーニング」にも変化があるかもしれない。
株式会社ハイテクノ 東京オフィス
東京都港区港南
http://hi-techno.co.jp/