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Creative Office 288色でできたリノベーションオフィス

建物とは本来、立地や気候、文化などによって形づくられていくものだ。「100年後の街つくり」を企業ミッションとし、不動産売買・仲介やリノベーション、建材の販売などを展開するNENGO(ねんご)のオフィスは、その理念が具現化されている。

 

神奈川県川崎市。国道246号の陸橋沿いに立つ倉庫が、NENGOの本社だ。

1階は同社が販売を行う塗料の調色工房で、実際に調色されている過程が見られる。もともとハンドメイドが売りだったが、倉庫型のオフィスに入居したことで制作現場を積極的に見せるようになったという。

2階のオフィスでは、天井高と無柱構造を生かした開放的な空間に30人以上が働く。間仕切りのない一つの空間にほぼ全ての社員がいることでコミュニケーションも円滑にすすみ、部署や上下関係を超えた交流が生み出されているという。一般的なオフィスに比べ、不便なところは多い。それでもお客様の「素敵なオフィスね」という声がうれしい。

このオフィスをもっとも特徴づけているのが、オフィスの一角に設けられた多目的スペースだ。商談やミーティング、会議などに使用するためのものだが、その見どころは壁。さまざまな色が混然と混じり合いながらもうるささは全くなく、ところどころに見られる塗装の表情が生み出す陰影は、落ち着いた質感とともに美しささえ感じさせる。

比喩ではなく、その色を言葉で表すことは不可能だ。なぜならこの壁は、色が常に「変化」するのだから。

実はこの壁には、同社で輸入販売を行う塗料が塗り重ねられている。

「もともとは、自分自身で塗装する文化を日本に根付かせようと始めたものでした」と話すのは、同社の塗料販売部門・POTER’S PAINTS SHOP店長の山口円氏。同社の塗料を購入するには塗装体験への参加が前提となるが、この壁がワークショップに使用されているのである。

「家や街に愛着を持ってもらうことで、当社が提唱する『100年後の街つくり』につながればと考えました。まずは自分で自分の家に手をかけてほしいというのも、塗料の販売をはじめたきっかけのひとつです」

ワークショップは毎月4回。同社が移転してきたのが8年前。さらに、気分を変えるため仕事の合間に社員が塗ることも時々。ということは、これまでに100回以上塗り重ねられている。計算されつくしたかに見える壁の美しさも、意図したものではない。「実は当社にはデザイナーはいません。オフィスの意匠も含め、社員みんなで作り上げたのです」

 

リノベーションを受注した際には家庭の状況から将来設計、理想まであらゆる点をヒアリングし、数十ページにおよぶレポートを作成してから始めるという同社。それも、日本の歴史と気候、文化が作り上げた街を100年後に残したい。まずは地元の人に、自分の街に愛着を持ってもらいたいという思いからだ。色を塗り重ねることでオフィスに対する愛着が増したという同社社員の言葉は、手をかけること、その大切さの何よりの証明だ。

株式会社NENGO

神奈川県川崎市高津区下作延

http://www.nengo.jp/