倉庫建築の特長のひとつに天井の高さが挙げられる。これは倉庫をリノベーションの素材として見た場合も同様で、ショールームでもスタジオでもオフィスでも、倉庫をリノベーションした物件は天井高を活かした内装としている場合がほとんどだ。一般的なビルでは天井高が3メートル以上もある物件は皆無といってよく、高い天井は倉庫の持つ大きなアドバンテージの一つなのである。「クエール・クライミングジム」もまた、高い天井を存分に生かした施設だ。
「クエール・クライミングジム」に入るとまず目に付くのが、色とりどりのパーツが張り付けられたカラフルな壁と、床に敷かれた厚いマット。カラフルな壁は約4メートルの天井いっぱいまで伸び、近くで見ると威圧感さえ覚える。この壁こそ、ボルダリングの専用施設である同ジムの根幹なのである。
ボルダリングとはいわゆるロッククライミングの一形態で、ロープなどの道具を使わず手足のみで岸壁を登るフリークライミングのなかでも、比較的小さな岩を登るスタイルをいう。壁に取り付けられたカラフルなパーツはホールドと呼ばれる「手がかり」で、ここに手や足をかけて登っていく。
「物件選びにおいて天井の高さは絶対条件でした」と話すのは、同ジムを運営するアップライトの取締役・上倉亮氏。ボルダリングに必要な高さは3~5メートルほどとされているが、約4メートルの天井高をもつこの建物はまさにうってつけといえる。地下鉄有楽町線・同副都心線「平和台」駅から徒歩6分、交通量の多い環状八号線沿いという立地も集客には有利だ。
昨年4月にオープンするまで木工所の作業場や資材置き場として使われていたという室内はいたってシンプル。90度から120度まで傾斜を変えて設置された6枚のクライミングウォールのほかは、キッチンとトイレをリフォームし、更衣室と受付カウンターを設けた程度。ボルダリングはクライミングウォールとマットさえあれば楽しめるため、多くの造作を必要としないのもリノベーションに好適といえる。またボルダリングの面白さはホールドの配置と種類で決まるといわれており、これをどう組むかが運営者の腕の見せ所。浮いた費用をホールドの購入に充てることができるのも、倉庫を利用するメリットだ。
ボルダリングは手軽に全身運動ができ、バランス感覚や体幹を鍛えられるとあって人気が高まりつつある。装備もシンプルで安全面での問題もクリアしやすいことから屋内で行われる場合も多く、国内でも専用施設が増加している。「クエール・クライミングジム」は、趣味や嗜好の多様化が倉庫の使い道を広げることを気づかせてくれる施設だ。