セルフストレージといえば、一般の人にとって最も身近な倉庫といえるだろう。ビル内に設けられたトランクルームはその代表格だが、多くは競争力の低下したビルを改装したもの。トランクルームにリノベーションを施して魅力的な施設に再生させた「STOCK(ストック)」は、まさに唯一無二の倉庫リノベーション事例だ。
「STOCK」の前身は、平成23年に竣工した5階建てのトランクルーム専用施設。しかし前身という表現は、正確ではないかもしれない。平成27年9月1日のリニューアルオープン後は1階を駐車場、2階をキッチンとコワーキングスペース、3階をレンタルオフィスとし、4~5階は従前どおりトランクルームとなっているのである。
他施設との差別化が課題とされるコワーキングスペースの運営において、トランクルームを併設した「STOCK」の優位性は十分といえる。規模は小さくともインキュベーターが在庫を持ってビジネスを行うことが可能になるのだから、そのメリットは大きい。しかし多くの人が「STOCK」の最も大きな魅力として感じるのは、おそらく2階のキッチンだろう。
2階部分はコワーキングスペースに約120㎡を割き、最大56席のフリーアドレスデスクを用意。会議や打ち合わせに使用できるミーティングスペースも2室備えた。そしてコワーキングスペースとガラス戸で隔てられたスペースに設けられているのが、プロ仕様の調理機器を完備したキッチンだ。こちらは独立した大小2つのスペースからなり、面積は合わせて80㎡を確保している。
大きなキッチンはスツールを配した対面式で、大出力のコンロを2カ所に配置。ゆったりとした空間は最大20名程度が利用可能で、分割使用も可能。料理教室やちょっとした食事会にも使えそうだ。一方の小さいキッチンはレストランの厨房のようなシンプルなつくりで、コンロは1カ所。こちらの利用人数は5~10名で、独立した空間となっているため新メニューの試作などクローズドな用途にも使える。いずれも調理器具と食器が一通りそろっており、大きなキッチンにはエスプレッソマシンも備えられている。
キッチンは有料で誰でも利用できるほかコワーキングスペースと合わせて貸し切ることもでき、イベントも開催できる。コワーキングスペース運営のカギのひとつに利用者同士の交流やコミュニティの形成が挙げられることが多いが、キッチンの存在がそこに寄与することは間違いないだろう。
室内は倉庫としては柱が多いが、実はこの柱は貨物用コンテナのフレーム。コンテナを積み重ねて構造材とした建物は類がないが、これはリノベーションにあたって独特の味わいとして生きている。天井パネルやクロス、タイルカーペットを剥がしてスケルトンにした、いわゆる倉庫っぽい内装のコワーキングスペースは数多い。しかし「STOCK」はコンテナルームを有する現役の倉庫であり、しかもその構造は貨物用コンテナを積み重ねたもの。倉庫っぽいという基準でいえば、そのアドバンテージはひじょうに高いといっていい。
マネージャーの久木田望氏は「STOCK」設立の目的を「寂しいイメージをもたれるトランクルームを、人が集まる暖かい空間にしたかったから」と話す。キッチンのもつ暖かみは、利用者にも確実に伝わりつつあるようだ。
STOCK
東京都港区高輪2-16-4