JR「西荻窪」駅南口から歩いて5分ほどの住宅街にある元倉庫。10年以上も閉じたままのシャッターが開き “アートが集まる倉庫”として生まれ変わったきっかけは、一人のブランドディレクターの思いだった。
「ヨロコビto」は、ギャラリーとカフェ、アートカードの販売スペースからなる複合アートスペースだ。「作家を応援する」「日常にアートを」をコンセプトに2016年4月に開設された。もと製紙原料業の資材置き場などとして使用されていた場所だが、使命を終えた後はシャッターも閉じたまま、上階に住む建物オーナーのストックヤードとして10数年が経過。だが立地は良く、道を少し歩けばアンティークショップや雑貨店などが並ぶ通りにでる。リノベーションすれば収益物件として再生できることが容易に想像できるものの、建物オーナーは他の多くのオーナーと同様、当初は見知らぬ他人に貸して多くの人が出入りすることを躊躇していたという。しかしもともとアートに理解があり、ヨロコビtoの理念にも共感。賃貸物件として貸すことを決意したという。
ギャラリーは大きな窓から光が差し込む明るい雰囲気。3150mmという天井高を活かした開放的なつくりで、白を基調とした内装はセオリーどおりだがところどころに置かれたアンティークの木製ファニチャーが暖かみを感じさせる。ここは貸しギャラリーではなく、ヨロコビtoが応援する作家の展示を中心にした企画ギャラリーである。施設と同名の株式会社ヨロコビtoはもともとブランドデザインとアーティストの応援を柱とする事業を2014年から展開している。このギャラリーは、同社の「作家を応援する」というコンセプトが具現化した空間なのだ。その奥のギャラリーに併設されたアートカードの販売スペースにはヨロコビtoが応援する20人の作家の200種類以上のオリジナルアートカードが常時販売されている。いずれもリーズナブルで、気軽に手にしやすいものが中心。最奥のカフェはリビングのような空間を意識したという落ち着いた設え。フローリングというよりウッドデッキと言ったほうがしっくりくる床や、使いこまれた感がかえって心地いいテーブルとイス、美術書が並ぶ本棚、三週間ごとに変わる絵の展示などリビングのようなギャラリーを兼ねている。つい長居したくなる空間である。こちらは「日常にアートを」というもう一つのコンセプトをカタチにしたといえるだろう。「ギャラリーを開設するにあたって天井高は必須条件でした」と話すのは、ヨロコビto代表のブランドディレクター・柏本郷司氏。天井高といえば倉庫の持つアドバンテージの一つだが、集客につながる立地で、手頃なサイズの物件はほとんどないといっていい。しかも同社の活動拠点である西荻窪で、オーナーがアートに理解がある。今回の物件との出会いはまさに邂逅といっていい。
嬉しい誤算もあった。西荻窪はどちらかというと“文人気質”の街。創造的な活動に従事する社会人が多く、当初はそうした層を客として想定していた。だが実際にオープンしてみると、子連れの母親や学校帰りの小学生が来店するという。
ヨロコビtoが発信するアートは、着実に街に溶け込んでいるようだ。
ヨロコビto Gallery café ArtCard
東京都杉並区西荻南